2020.02.03 - Songwriter
Behind The Walker Sound Behind The Walker Sound
Scott Walker-John Franz

(1965)

Songwriterシリーズ
今回は2020年2月2日SSB「Scott Walker 特集 PART 2」のスピンアウト企画として、イギリス時代の The Walker Brothers と Scott Walker のサウンドを音楽プロデューサー及びアレンジャーの側面から探ってみたいと思います。
題して、『Behind The Walker Sound』です。

1964年、アメリカの3人組グループ、The Walker Brothers がイギリスに渡り、契約したレコード会社は Philips Records でした。そこで The Walker Brothers を担当したプロデューサーは John Franz という人でした。まずは、この John Franz の経歴から話を始めたいと思います。

John Franz(プロデューサー)

John Franz は1922年ロンドン生まれ。1940年代は歌伴奏のピアニストとして働いていました。BBC(英国放送協会)のラジオ出演するシンガーの伴奏をするためにBBCに出入りするようになり、その後、BBC の音楽ディレクターになります。1954年に Philips Records にA&Rマンとして入社。多くのミュージシャンやシンガーを発掘します。

John Franz が発掘したグループの中に3人組のグループ、The Springfields がいました。The Springfields の紅一点、Mary O'Brien にボーカル力に将来性を見い出した John Franz は彼女のソロデビューを企画、Mary O'Brien から Dusty Springfield と名前を変え、1963年にリリースしたシングル "I Only Want To Be With You" は大ヒットとなります。その後、Dusty Springfield はその実力ともにイギリスのみならず、世界的な人気シンガーとなり、John Franz はプロデューサーとして大成功を納めます。

このようにとても状況が良い時に、Philips Records はアメリカから来た3人組、The Walker Brothers を迎え入れ、John Franz がプロデューサーに就きます。
John Franz は Scott Walker 達がアメリカで実際体験してきた西海岸のスタジオワークを尊重、意見を取り入れながら、音作りを行いました。John Franz が特に関心したのが、Scott Walker の"声"でした。John Franz は Scott Walker がソロになってもプロデュースを担当します。John Franz と Scott Walker はプライベートでも仲が良かったようで、選曲においても2人でよく話し合い決定したと思われます。

音の要となるミュージカル・ディレクター、いわゆるアレンジャーには主に後述する4人がいます。John Franz はこの4人のアレンジャーに適切に依頼し、クオリティーの高い音楽を作り上げました。
ここからは4人のアレンジャー毎に2曲程ずつ、聴いていきたいと思います。


* Scott Walker(左)、John Franz(右)



Ivor Raymonde(アレンジャー)

アレンジャー、Ivor Raymonde も BBCの音楽監督の出身者で、プロデューサー、Johnny Franz とはそのBBCで知り合ったのだと思います。先に述べた Dusty Springfield の "I Only Want To Be With You" の作者でもあります。それに続く、"Stay Awhile" も彼の作品で、その他に Helen Shapiro などにも曲を提供。イギリスを代表するアレンジャー、コンポーザーです。若い頃は俳優業もやっていたそうです。


Make It Easy On Yourself(Burt Bacharach-Hal David) / The Walker Brothes(1965)

Burt Bacharach-Hal David の作品。UK Singles Chartの1位、US Billboard Hot 100の16位。The Walker Brothers の人気が高まったナンバーです。Ivor Raymonde の重厚なアレンジが効いています。いわゆるイギリス版 "ウォール・オブ・サウンド" と言われている重厚な音作りです。実際に、Scott Walker や John Walker(John Maus) は"ウォール・オブ・サウンド" を渡英前、アメリカ西海岸の Gold Star Recording Studio で見聞きした可能性は高く、それが音像制作に充分に生かされたんだと思います。オリジナルは1962年のリリースの Jerry Butler でアレンジは、Burt Bacharach 自身でした。
"The Sun Ain't Gonna Shine Anymore" のアレンジも Ivor Raymonde です。


I Don't Want To Hear It Anymore(Randy Newman) / The Walker Brothes(1965)

Randy Newman の作品。オリジナルは前年、1964年にリリースした Jerry Butler だと思います。一般的に Randy Newman の楽曲が評価されるのは1960年代後半になってから。選曲に唸ります。Ivor Raymonde の落ち着いたアレンジ、そして何よりも Scott Walker のボーカルが素晴らしいです。


* Ivor Raymonde


Reg Guest(アレンジャー)

The Walker Brothers の作品で一番アレンジを多く担当したのが、Reg Guest です。元々は Reg Guest Trio という3人組のグループを組んでいた演奏者でした。Earl Guest の名でもアレンジを手掛けており、Lulu、Sylvie Vartan、Lesley Duncan などのアレンジを手掛けました。Dusty Springfield が歌った "The Look Of Love"(Bacharach-David)のアレンジを担当したのもこの Reg Guest でした。とてもセンス良いアレンジをする人です。


I Need You(Gerry Goffin-Carole King) / The Walker Brothes(1966)

Gerry Goffin-Carole King の作品で、Chuck Jackson のバージョンが初出です。ドラマティックに展開、素晴らしい Scott Walker のボーカルです。アレンジャーの Reg Guest もこれまで Ivor Raymonde が進めてきたイギリス版 "ウォール・オブ・サウンド" を踏襲して、素晴らしいオケに仕上げています。


Deadlier Than The Male(John Franz-Scott Engel) / The Walker Brothes(1966)

映画『キッスは殺しのサイン』(DEADLIER THAN THE MALE、1966)の主題歌になったナンバー。プロデューサーの John Franz と Scott Walker(Scott Engel)の共作曲です。当時、流行のスパイ映画の主題歌なので、007シリーズのJohn Barry を意識したサウンド作りとなっています。


* Reg Guest(一番左)


Peter Knight(アレンジャー)

Peter Knightは主に Scott Walker のソロ作品でアレンジを担当しました。Peter Knight はテレビや映画で音楽監督をしていた人です。Philippe Sarde が作曲した映画『テス』(Tess、1979)のオーケストレーションは Peter Knight によるものです。また、Carpenters のクリスマスアルバム『An Old-Fashioned Christmas』、The Carpenters 版の "Calling Occupants of Interplanetary Craft" (1977) のオーケストレーションも Peter Knight が手掛けました。とても流麗なストリングスを書く人です。


Joanna(Jackie Trent-Tony Hatch) / Scott Walker(1967)

Jackie Trent-Tony Hatch の作品。ソロシンガー、Scott Walker のセカンドシングルとしてリリースされ、UK Singles 7位となります。Tony Hatch は自作の楽曲は自ら音楽ディレクションする人ですが、今回は Peter Knight に委ねています。気持ちこもった素晴らしいアレンジです。


Through A Long And Sleepless Night(Alfred Newman-Mack Gordon) / Scott Walker(1966)

オリジナルは映画『星は輝く』(COME TO THE STABLE、1949)の主題歌で、Randy Newman の叔父にあたる Alfred Newman が作曲したナンバーです。あまり知られていない曲にもかかわらず、John Franz と Scott Walker の選曲眼は素晴らしいです。Peter Knight はこの曲をロマンティックに美しく仕上げました。



* Peter Knight


Wally Stott(アレンジャー)

Scott Walker のソロ作品でアレンジを担当、特に Jacques Brel の作品は Wally Stott が担当しました。Peter Knight と並んでアカデミックな素養がある人で、とても繊細なアレンジを施す人です。Wally Stott はトランスジェンダーでした。1972年に性転換手術を受け、"女性" となります。Angela Morley と名前を変え、カナダに移り住み、映画音楽のアレンジャーとして活躍。John Williams 作曲の「スターウォーズ・シリーズ」などのアレンジにも携わります。音楽界でも数少ない"女性"アレンジャーの1人でした。


The Big Hurt(Wayne Shanklin) / Scott Walker(1967)

1959年に Toni Fisher が Gold Star Recording Studio で録音したものがオリジナルです。作者の Wayne Shanklin は "Chanson D'Amour (Song of Love)" の作者でも知られるシンガー、ソングライターです。Wally Stott の流れ落ちるようなストリングスの響きが素晴らしいです。


Come Next Spring(Lenny Adelson-Max Steiner) / Scott Walker(1968)

オリジナルは映画『春来りなば』(COME NEXT SPRING、1956)の主題歌で、Max Steiner が作曲したナンバー。これを選曲するセンスに脱帽。Wally Stott はここでも繊細な美しいストリングス・アレンジを施しています。


* Wally Stott


* Angela Morley(aka Wally Stott)








(富田英伸)

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