夏なんです
『風街ろまん』
はっぴいえんど
URC URG-4009/LP 1971
 埃っぽい畦道、鎮守の森、入道雲。
 子供のころの夏の記憶を思い出させる一曲です。僕の生まれ育った場所は、別に都会でもなく田舎でもなく、街と自然とが中途半端に交じり合ったような所でした。松本隆の詩にあわせて、淡々と弾き語る細野さんのヴォーカルが、うすぼんやりした過去の記憶にマッチします。最近の夏は、どぎつすぎます。太陽にはギンギンギラギラという余裕が欠けていますし、雲にはモンモンモコモコというユーモアがありません。気温の上昇も夕立も、結論を急ぎすぎます。それは石畳がアスファルトになってしまったせいか、それとも鎮守の森が駐車場になってしまったせいか。夏も熱さとその裏でどこかひんやりとした一面を持っていたことをこの曲は思い出させてくれます。
 日傘くるくるぼくはたいくつ。遠い夏の記憶の光景です。


(たかはしかつみ)


 ざわわ ざわわ ざわわ。さとうきび畑にわたる風の描写の繰り返しが、とても印象的なこの曲は、寺島尚彦作詞作曲で森山良子が60年代から大事に歌ってきた曲です。僕も子供のころから繰り返しテレビで聴いた記憶がありました。南の夏は、南の風は、なんて気持ちいいんだろう。サトウキビ畑を見たことのない僕は単純にその光景に思いを巡らせていました。テレビの記憶を調べてみると、僕らがかつて聴いたのは「NHKみんなのうた」で、歌はちあきなおみ。森山良子が「みんなのうた」で歌ったのは97年のことで、それがその年の紅白でのパフォーマンスにもつながりました。
 8月は一番元気いっぱいの季節。でもその裏側に忘れられない記憶としてかなしさがあるのも、我が国の夏の姿だと思います。反戦歌としての意味がわかる年齢になって、この曲がさらにファイバリットになりました。


(たかはしかつみ)

さとうきび畑
『コンプリート・シングル・コレクション』
森山良子
Polydor POCH-1669/70/CD 1997





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