2019.12.12 - Magic Voice
Have Yourself a Merry Little Christmas Have Yourself a Merry Little Christmas
Gene Puerling

The Singers Unlimited (1972)

Magic Voicesシリーズ
Gene Puerling の2回目です。

ロック全盛の時代になった1960年代中期、 Gene Puerling は、Hi-Lo's 解散後、シカゴでCMの仕事やジングルを制作したり、レコーディング・スタジオで働くことが多くなります。そこで出会ったのが、同じCMで低い声を中心にアテていた Len Dresslar、そして同じくCMの仕事をしていた女性ボーカリスト、Bonnie Herman でした。

1960年後期は録音技術が著しく発達した時期であり、Gene Puerling はこれまで自ら培ってきたコーラスアレンジの技術とマルチチャンネル録音を駆使したスタジオ録音に特化したコーラスグループ、The Singers Unlimited を結成しました。メンバーには Len Dresslar、Bonnie Herman、そして、The Hi-Lo's のメンバーだった Don Shelton が招集されました。

Len Dresslar(バス)
Gene Puerling(バリトン)
Don Shelton(テナー)
Bonnie Herman(ソプラノ)

Gene Puerling は早速、Lennon-McCartney の "Fool On the Hill" などのデモを作成しました。それを聴いたジャズピアニスト、Oscar Peterson はそのデモ録音にいたく感動し、旧知であったドイツの音響プロデューサーの Hans Georg Brunner-Schwer にそのデモテープを送りました。Hans Georg Brunner-Schwer のスタジオは当時、最新の16トラックチャンネル録音コンソールを所有し、録音では世界で最高の技術を有していました。

1971年、The Singers Unlimited は渡独し、Hans Georg Brunner-Schwer のスタジオで録音、デビューアルバム『A Capella』がドイツの MPS Records からリリースされました。翌年にはクリスマスアルバムの傑作、『Christmas』をリリース。以降、ボーカル部分はこのドイツで録音されることになります。3枚目のアルバムはその The Oscar Peterson Trio とのコラボレーションのアルバム『In Tune』が録音されます。日本国内ではこれが先にリリースされました。1980年まで、アカペラアルバム3枚を含む、計13枚のオリジナルアルバムをリリースしました。

また Gene Puerling は The Manhattan Transfer、Carpenters、The New Swingle Singers、Gloria Estefan などのコーラスアレンジ、特に定評のあるアカペラにおけるコーラスワークを手掛けました。

The Singers Unlimited の音源を改めて聴いて気づいたことを。
The Singers Unlimited の個々のメンバーは歌唱法等については、特に専門的な教育を受けてきた人達でなく、リーダーの Gene Puerling からみて、個人個人の"声"に魅力があったのだろうと思います。バスの Len Dresslar も元々声優の仕事をやってきた人で、Don Shelton も元は管弦楽奏者です。Gene Puerling 自身も若い頃からエンターテイメントの世界に身を置き、そこでコーラスワークやその技術を努力して培ってきました。美しいボーカルの中に生身の声の素晴らしさを引き出し、僕たちはそれを耳にして、胸ときめいているんだろうと思います。


"声" の魔法使い、Gene Puerling は2008年に永眠、コーラスに魅せられた天才は旅立っていきました。


Killing Me Softly With His Song(Norman Gimbel-Charles Fox) / The Singers Unlimited(1975)

1975年リリースのアルバム『A Capella II』より。冒頭、紅一点の Bonnie Herman のソロから始まります。終盤、多重に織り込まれた声のシャワーの心地よいこと!コーラスアレンジの Gene Puerling のなせる神業です。


Girl Talk(Bobby Troup-Neal Hefti) / The Singers Unlimited(1975)

同じくアルバム『A Capella II』より。1965年に Neal Hefti が書いた映画『ハーロー』(HARLOW)の主題歌、"Girl Talk" を軽快にコーラスしています。大好きな曲。Gene Puerling は選曲にもセンスがある人でした。


Stone Ground Seven(Roger Kellaway) / The Singers Unlimited(1978)

1978年のアルバム『Just In Time 』から。このアルバムのアレンジを手掛けた Roger Kellaway のオリジナル曲です。ソロスキャットを Don Shelton から Bonnie Herman へ繋ぎます。素晴らしいスキャット!何度聴いても飽きません。


I Loved You(Claus Ogerman- Alexander Pushkin) / The Singers Unlimited(1978)

1978年のアルバム『Just In Time 』から。名アレンジャーとして広く知られる Claus Ogerman が書いた1曲。The Singers Unlimited のコーラスに合わせて、ストリングスもとっても繊細。まるで静かな美術館で印象画を観ているよう...。


Have Yourself a Merry Little Christmas(Hugh Martin-Ralph Blane) / The Singers Unlimited(1972)

最後にクリスマスの曲を。1972年のアルバム『Christmas』から。クリスマス時期には欠かせないアルバムです。皆が歌い終わった後、 Bonnie Herman がメンバーの名前を紹介、そしてその素敵な声で一言、語りかけます。" Peace ! "



(富田英伸)

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