第1回 : 上柴とおるさん



ポップス原体験

-上柴さんがオールディーズに目覚めたのは?
 今でこそオールディーズですけど、その当時はオールディーズじゃないですからね(笑)。だからオールディーズに目覚めたゆうことないですね、リアルタイムやし。そういう意味では僕にとってのオールディーズは Beatles 以前ということになるんですが、当時は全然知りませんでしたね。Paul Anka とか Neil Sedaka の「恋の片道切符」ぐらいは知ってましたけど。

だから、そういう意味できっかけになったのは『Rock'n Roll Original Hits』 っていう72年に買ったレコードです。Doo-Wopも含めたいわゆるロックンロール・ヒッツですよ。VOL.3まで出ていてこれをアルバイトしたお金で買って。当時桜井ユタカさんの「Soul On」っていう雑誌があってね、今もありますけど。で、それにこういうのが出てて。当時は「HIT SONG FAN」っていうミニコミ誌やってたんで勉強のために買ったんですよ。

そしたら今までにない世界があったんですよ。ダサイやないですか、音が(笑)。60年代とは全然違ってね。それで目覚めましてね。それが僕にとってのオールディズかな。

『Rock'n Roll Original Hits Vol.1』
(日本コロムビアSL-5038)

『Traces』
Classics IV
(Imperial LP-12429)

-好きなソングライターは?
 ありすぎて言えないんですが、まず、P.F. Sloan。P.F.Sloan と Steve Barri ね。当時から大好きでしたねえ。彼が作る曲が好きだったんですよ。でも最初から目指してたわけじゃなくて後で気がついたら全部つながってたんですね。

「ああ、これもこいつの作品か」ってことなんですよね。僕らの時代はそうですわ。今みたいに Barry Mann の曲だけ狙い打ちしようとか、そういうこと出来ませんもの。そんなヤツ、変です(笑)。94年にカムバック作を22年ぶりに出して、そのときに解説書かせていただきました。

 それからBuddy Buie と James Cobb 。Classics IVがめちゃくちゃ好きだったんですわ。

-日本人好みするような独特のウェットな感がありますよね。
 そうですね、「Traces」なんかまさにそう。でも日本ではまるで人気なかったですけどね。あとね、ヴォーカルに魅力があるんですわ、あの Dennis Yost の声ね。粘っこ〜いね。

-当時日本盤で出てたんですか?
 出てましたね、全部集めました。日本編集のベスト盤なんかも出てましたからね。でもなんでCD化されないんですかね。何か理由があるのかな。Dennis Yost が全部版権もって渡さないとか、商売人であるとかね(笑)。

-好きなプロデューサーとして Lou Adler をあげていらっしゃいますが。
 もちろん Dunhill ですわ。これもその当時は知らなくて、後から彼がプロデュースした作品が好きだったということが分かるんですけれども。最初は Carole King のアルバムでしたか。

『Tapestry』で気がついて、後からこのおっさんはそう言えば、 Mama's And Papa's とかもやってたし、Dunhill やなと分かったんですね。70年代以降ですよね、こういう裏方を認識したのは。

 他にもソングライター、プロデューサーってなんぼでもおるんですが、やっぱり中学、高校時代に聴いたものが一生残ると思うんですよ。どなたでもそうだと思います。


リ・イシュー制作の現場にて


-今までたくさんライナー・ノーツを書かれていて、去年も Equinox とか、Gorgoni,Martin & Taylor とかいろんなところでお名前を拝見しましたが。
 それはふたつとも長門(芳郎)さん関連のお仕事ですね(笑)。去年は書いた枚数は少なかったですけどね。だいたい長門さんが忙しいときにうちに廻って来るみたいで(笑)。

Equinox の場合も突然廻ってきた。あれ、レコード会社の注文書(カタログ)を見てて「すごいの出るなあ、とうとう出るのかあ」と楽しみにしてたら、いきなり電話かかってきて「解説書いてくれないか」(笑)。だからあれはほめてくれる人多いんですけど心苦しいんですわ。「俺が書いていいの?」って。

好きやけど以前から研究してたわけでもないんで。もともとは長門さんが Bruce Johnston に解説を依頼していたらしいんです。でも彼に連絡がとれなくて。で、締め切りが迫ってる。長門さんも仕事でニューヨークに行かなきゃいけない、時間がないというわけで。どうして俺が?、ここらへんはうるさい人多いし(笑)、滅多なこと書けないし、どうしようかとちょっととまどいましたけど、そのとき仕事がなかったので引き受けてしまったんです(笑)。

『California Music & Disney Girls RCA/Equinox Collection』
(BMG Fun House BVCM31050)

『Incense And Peppermints』
Strawberry Alarm Clock
(Universal MVCE-22007)

-そういう時っていうのは、片っ端から資料を集めて書かれるんですか?
 持ってる資料全部引っぱり出して。でも Equinox に関して言えば今までちゃんと書かれたものがないし、あっても間違ってたりするんですよね。例えば74年に設立っていうのも違うんですよね。あれはややこしいんです。Equinox Record と Equinox Production とゴッチャになってるみたいですね。

プロダクションは68年からあるんですよね。解説にも書きましたけど、誰も言わないのでこれは伝えなきゃいけないと。知らないことも当然ありますよね。カタログは残ってるんだけどアーティストが分からなくて、長門さんも分からない。一生懸命調べたんですけどね。

-今はインターネットがあるから、割と楽に調べられたりするんですが、昔は大変だったでしょうね。
 常日頃から資料を集めておくというのが大事ですよね。そこがこれで食べている人とアマチュアの研究家の方と違うところだったんです。僕らはそういう資料もわりと手に入りやすいじゃないですか。だからそういうところで優位に立てたんですけど、今は同じですよね。だから今はプロのライターは大変でしょうね。

-今までで特に思い入れのあるライナー・ノーツって何ですか?
 自分で企画・監修したというのがいちばん思い入れがありますね。ライナー自体は自分から書かせてくれというのはほとんどなくて、だいたい向こうの方から来ますから。

まあ東京の評論家の方は自分で売り込む方も多いと聞いてますけど(笑)。「私に書かせろ」とか、「俺に書かせないでどうすんの」とかね(笑)。うるさい人もおられるようで・・・。あ、一部の方ですよ(笑)。

 ライナーはそんなに好きじゃないのが廻ってくるときもありましたよ、以前はね。昔はディスコ系もたくさん書いていたんですよ。

 やっぱり自分が好きなものには思い入れがありますよね。Critters はめちゃくちゃ好きでしたからね。全部集めましたし。

あと Strawberry Alarm Clockの4枚は大変でしたけどね。よく出したなあと、こんなん誰が買うんかなあって(笑)。あと、『Best Of EW&F』これ、意外でしょうけど最初に出たときに書かせていただいたんですよ。これ大ヒットですわ。当時だけで10万枚ぐらい売れたと思います。その後CD化されて2回書き直ししました。

-EW&F というのはなんか意外な感じがしますね。
 最初はソウル&ディスコが中心だったんですよ。「アドリブ」誌にレギュラーでソウルものを書いてたんで。LPのライナーで最初に書いたのが Archie Bell & The Drells だったし。

 この当時はEW&F とあと Chic ですね。Chic も最初に出たベスト盤の解説を書いてるんですよ。Nile Rodgers はすばらしいなあと思って。

『The Best Of Earth,Wind & Fire Vol.1』
Earth,Wind & Fire
(Sony SRCS 9004)

『Chic's Greatest Hits』
Chic
(Atlantic/MMG AMCY-119)



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