Art Garfunkel

Crying In My Sleep

1977 " Watermark " Columbia CK34975/CD





 実はこのアルバム、昨年の今頃取り上げようと思って原稿も仕上げていたのですが何となく機会を逃していたのです。そうこうしていたら伊東潔氏が『Fate For Breakfast』を取り上げたのでしばらくお蔵入りしそうな気配だったのですが、このほど Jimmy Webb が初来日することになり、それをきっかけに思いがけず陽の目を見ることになってしまいました。
 今年の夏は暑い夏でした。9月に入っても厳しい残暑で、この時期にこの夏一番の暑さを記録した所もあるほど。だから夏を回顧するにはまだちょっと惜しい気もするのですがそんな、夏への惜別感もひっくるめて、そろそろこの短い季節に思いを馳せてみませんか。今年の夏、何かいいことはありました?


 今頃の季節、夏の終わりが近づくと取り出して聴いてしまう、そんな哀愁を感じる一枚が本作。
 スーパー・デュオ Simon & Garfunkel を経て Art Garfunkel が放った、ソロ3作目は Jimmy Webb の曲を全面的に取り上げています。大半はこのアルバムのために Jimmy Webb が書き下ろしたもので、とにかくとても美しく、人柄を感じさせるような Art の優しい歌声が Jimmy の繊細な曲調にマッチして聴く者の心をとらえます。かの Richard Harris や Glen Campbell を聴くときにも感じることですが、どうも Jimmy Webb の曲というの歌うアーティストに恵まれていて、おかげで曲の魅力が十二分に引き出されているようです。
 とりわけ美しいのは「Crying In My Sleep」。独特のしっとりとしたコーラスを絡めてゆっくりと盛り上がっていく構成に引き込まれていきます。「All My Love's Laughter」や「Someone Else(1958)」などのバラードも Jimmy Webb らしい佳曲。ストリングスやホーンの効果的な配置、Jimmy 自身のピアノなどよく練られたアレンジも曲を盛り上げていきます。
 バックには Roger Hawkins や Barry Beckett らマッスル・ショールズ・リズムセクションを起用。The Chieftains も参加しています。
 澄み渡った夏の終わりの空の下。季節の移ろいを感じ始める頃に、熱かった季節を振り返りながら、Jimmy Webb の『
Ten Easy Pieces』とともに聴いてみてください。きっと ふたりの優しさに火照った心が癒されていくことでしょう。

(脇元和征)





Copyright (c) circustown.net