千年紀末に降る雪は
キリンジ
2000 " 3 " Warner Music Japan WPC6-10109 / CD
 古今東西、これほど不穏な気配が漂うクリスマス・ソングはあまり記憶にありません。ドラム、ピアノ、チューバ、ウッドベースが奏でるスローなビートの上に重厚なストリングとホーンが被るイントロは、聖夜をテーマにした曲にしては重め。歌詞に目をやれば、「砂漠に水をやる」、「永久凍土」、「嘲笑う大人」、「孤独の深さ」と憂鬱な気持ちにさせるフレーズが目白押しで、まさにハッピー・クリスマスに背を向けた情景が展開されています。にも関わらず、なぜか私はこの曲に胸を打たれてしまうのです。
 日本の若手(といってもすでに三十路)ミュージシャンの中では珍しいほど職人作家的な音楽世界を最初から確立していた堀込兄弟。彼らの音楽を強引に一言で表現すると「通好みポップス」ということになるのでしょうけど、彼らがダイレクトに影響を受けた Steely Dan、Burt Bacharach、Beach Boys など「通好み」な先達が抱えていた「通俗性」をも継承しようと奮闘しているのは頼もしいところ。そういう意味では彼らの比較対象としてはっぴいえんどやシュガーベイブと共にオフコースの名が挙がっていたのは個人的には賛辞に思えます
 しかしこれほど豊かなポップセンスに恵まれながらも今一つビッグヒットに結びつかないのは、歌いこなすにはやや複雑で懲りまくったメロディーの所為というよりは、常に醒めた視点を感じさせる詞により聞き手が距離感を感じるからなのでしょうか。特に兄の堀込高樹によるシニカルで多義的で毒気を帯びた歌詞は強烈です。彼のように架空のドラマを題材にし、歌い手が当事者なのか傍観者なのかわからない歌を書く人というと、私は真っ先に Randy Newman を連想します。詞だけを追うと残酷だったり冷ややかに感じられるものが、彼が紡ぎ出すメロディーと一体となり、歌として歌われた時に今までに無い世界が浮かび上がってきます。これは Randy Newman の楽曲とも共通する堀込高樹作品の大きな魅力の一つだと思います。そして、これに堀込泰行の柔らかい声と、今をときめく冨田恵一の華麗なアレンジメントが揃った時に生まれるマジックは唯一無二で何物にも替え難いものがあります。

 そんな堀込高樹の手腕はこの曲でも遺憾なく発揮されており、私が心底凄いと思ったインディー時代の作品「水とテクノクラート」と同じく聞き手の予想の裏をかく様な展開が繰り広げられています。不吉な予感に緊張感を覚える冒頭から、まるで Paul McCartney のような小さな幸福感に彩られた大サビに着地するなんて。やっぱり彼らにはポップスの王道というものが根付いているのでしょう。うーん、こんなに素晴らしいポップスを「通好み」という枠内に留めるのは惜しい。
 神を喪失した時代の聖夜において、時代遅れの善人の役割を担おうとする者は孤独だ。そんな彼に慰みを一つ。永久凍土も溶ける日が来る。そう歌い上げる堀込泰行の声は澄み切ってひたすら優しい。そしてその歌声を聞いているうちに涙がこぼれそうになるのは何故なのでしょう。

(醍醐英二郎)



Driving Home For Christmas
Chris Rea
1987 " Snow " Victor VDP-28013 / CD
 "クリスマスの夜、家路に急ぐ車の中。早くみんなに会いたい。帰り道はすっかり渋滞中。あと少しでフリーウェイだ。時間つぶしにこの歌を歌おう。君のために歌おう。今は声はまだ君には届かないけど。でも、もうすぐ側に居られる。ふと、隣の車の運転手が目に入る。あいつも俺と同じなんだな…" いかにもクリスマスならではの風景を暖かく歌い綴った Chris Rea の名曲です。
 最初は「Driving Home」というタイトルで1986年の冬にシングル「Hello Friend」のB面曲としてひっそりと発表されましたが、今やクリスマス・シーズンには欠かせないニュー・スタンダードとなった観があります。Chris にとっても「Fool (If You Think It's Over)」や「On The Beach」に次ぐ有名曲でしょう。ドラムのブラシとエレキピアノを配したライト・ジャズ風の演奏からは、静かに降り注ぐ雪の中を車で軽やかに飛ばしているようなイメージが浮かび上がり、Chris の苦みばしった声には、家族のもとに辿り着くまでの長い時間をそれなりに楽しんでいる大人の余裕が感じられます。なお、1988年のセルフ・リメイク集『New Light Through Old Windows』に再録バージョンが収録されていますが、やや華やかになり過ぎた印象があり、個人的には素朴な味わいのある最初の録音が断然好きです。

 この曲が最初に日本で紹介されたのは、1987年暮れに出された『スノウ』という日本編集盤だと思います。1985〜86年のシングルオンリーの曲を集めた所謂レアリティーズ集なのですが、これが結構充実した内容で同年のヒット作『On The Beach』と同じぐらい愛聴しました。「Driving Home〜」の他にも「Josephine」のExtended Version、「It's All Gone」と「Steel River」の二大名曲のLive Version (Montreuxでのライブ。Max Middletonの熱演が光ります)、山下達郎氏を彷彿させるミディアムナンバー「Look Out For Me」などが収録されています。
 「Josephine」と「Steel River」を含む『Shamrock Diaries』(1985年)は英国〜アイルランド的叙情溢れる名盤で、80年代UK-SSW物では Steve Winwood や Van Morrison の諸作と並んで最も好きな作品の一つ。寒い冬の日には今でも『スノウ』ともどもひっぱり出して聞きたくなるのです。
 それにしても Chris は、他にも「Joy Of Christmas」、「Winter Song」、「Footprints In The Snow」など実に冬の曲が多い人です。『Deltics』のジャケ写なども寒そうだし。しかし一方で『On The Beach』や『King Of The Beach』というアルバムも。まさに達郎氏と匹敵する夏冬兼用男です(笑)。

(醍醐英二郎)

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