終戦の年、2人のオーケストラコンダクター巨匠が共作した曲
2025.08.20

今回は とっても好きな曲、"Day By Day" の聴き比べ、そしてこの曲を作ったオーケストラコンダクター2人に焦点を当て、この曲が生み出された背景を探っていきたいと思います。
"Day By Day" といったら、Four Freshmen 。快活で心地よいこのバージョンをまず聴いていいてみましょう。
Day by Day (Axel Stordahl-Paul Weston-Sammy Cahn) / Four Freshmen (1955)
1955年に Capitol Records からリリースされ、翌年の Four Freshmen のアルバム『Freshmen Favorites』に収録されました。軽やかなラテンのリズム、コンガやボンゴの柔らかなパーカッション。トロンボーンの音色に、Four Freshmen の軽快で心地良いコーラス。アレンジを担当したのは Dick Reynolds。1950年代前半から中期にかけてのアメリカはちょっとしたラテン・ブーム。それを色濃く反映しています。
Day by Day (Axel Stordahl-Paul Weston-Sammy Cahn) / Four Freshmen (1964、NHK,Japan)
"Day By Day" は Four Freshmen のレパートリーの中でも人気曲となります。1964年のNHKに出演した時の様子です。Bob Flanigan のトロンボーンを聴くことができます。その Bob Flanigan のハイトーンなボーカルがよく聴こえています。
この "Day By Day" が作られたのは1945年。ちょうど終戦の頃で歌詞をみると、戦場から帰ってくる兵士を心待ちにしている気持ちが伝わってきます。
日に日に
あなたを想う気持ちが深くなる
そして日に日に
夢が現実になっていくように感じる
日ごとに
そばにいられる喜びが
胸いっぱいに広がってゆく
詩を書いたのは Sammy Cahn。これまで" It's Been a Long, Long Time"、"Time After Time"、"Let It Snow, Let It Snow, Let It Snow"、"The Christmas Waltz" などこれまで何度も登場した作詞家です。
彼は終戦の時にこの歌を世に出したいという強い気持ちで、この詩を持参し、いつも仕事で一緒になっていた2人のオーケストラコンダクターの元を訪ねます。そのオーケストラコンダクターとは Axel Stordahl と Paul Weston の2人です。2人はこれまでオーケストラの指揮やアレンジの仕事は多くこなしてきましたが、楽曲作りはこれまで積極的に関わって来ませんでした。2人は Sammy Cahn の情熱に根負けして、共同で作曲作業に入りました。
ここで2人のオーケストラコンダクター、Axel Stordahl と Paul Weston の簡単な経歴に触れておきたいと思います。ここで登場するのが、発展途上のまだ若きシンガー、Jo Stafford と Frank Sinatra 。"キー"になるのは Tommy Dorsey の楽団です。
まず、Paul Weston から。
Paul Weston は1912年、マサチューセッツ州スプリングフィールド生まれ。1936年に Tommy Dorsey の楽団に入団します。1939年、Paul Weston は Jo Stafford が在籍していたボーカルグループ The Pied Pipers のハーモニーがいたく気に入り、Tommy Dorsey に進言、The Pied Pipers がコーラス隊として入団します。
Paul Weston は1940年に Tommy Dorsey の楽団を離れ、作詞家、シンガーの Johnny Mercer が1942年に Capitol Records を設立すると、Paul Weston は Capitol Records の音楽監督に就任します。Paul Weston は The Pied Pipers から Jo Stafford を引き抜き、Capitol Records からソロデビュー。その後の1952年、2人は結婚します。
続いて、Axel Stordahl を。
Axel Stordahl は 1913年、ニューヨーク生まれ。Axel Stordahl も1936年、Tommy Dorsey の楽団に入団します。Paul Weston と同じ年に入団したので、2人は楽団同期となります。1940年にまだ若き、Frank Sinatra が Tommy Dorsey の楽団に入団。この時期は The Pied Pipers も楽団に在籍していたので、Frank Sinatra も The Pied Pipers のメンバーとしてみられたこともありました。Axel Stordahl と Frank Sinatra とはとても仲が良かったそうです。
1942年、Frank Sinatra は Tommy Dorsey の楽団を離れ、ソロ活動を開始、Axel Stordahl はそれに追従し、Frank Sinatra の音楽監督となります。Frank Sinatra は Columbia Records で約300曲を録音し、そのうち4分の3は Axel Stordahl がアレンジを担当したと言われています。
話は1945年に戻します。
Sammy Cahn の詩に2人のオーケストラコンダクターが曲を付け完成した ""Day By Day"、Paul Weston、Axel Stordahl 、それぞれが自分のレコード会社に持ち帰って、録音しました。
Paul Weston は Capitol Records で Jo Stafford の歌唱で、Axel Stordahl は Columbia Records で Frank Sinatra の歌唱でレコーディングします。
Paul Weston 側の Jo Stafford 版のリリースは1945年、Axel Stordahl 側の Frank Sinatra 版は1946年 となっていますが、Frank Sinatra 版の録音も1945年に完了していたそうです。それぞれのアレンジの違いや雰囲気など、聴き比べてください。
Day by Day (Axel Stordahl-Paul Weston-Sammy Cahn) / Jo Stafford (Conducter : Paul Weston、1945)
Day by Day (Axel Stordahl-Paul Weston-Sammy Cahn) / Frank Sinatra (Conducter : Axel Stordahl、1946)
1946年には、前年デビューしたばかりの Doris Day も録音をしています。この時は Les Brown の楽団名義で、Doris Day は Vocals by Doris Day と小さめにクレジットされています。
Day by Day (Axel Stordahl-Paul Weston-Sammy Cahn) / Les Brown And His Orchestra Vocals by Doris Day (1946)
10年が経ち、1956年の Doris Day のアルバム『Doris Day With Paul Weston And His Music From Hollywood』で再度、この曲を歌いました。指揮、アレンジは作者である Paul Weston が担当しています。
Day by Day (Axel Stordahl-Paul Weston-Sammy Cahn) / Doris Day (Conducter : Paul Weston、1956)
Axel Stordahl-Paul Weston-Sammy Cahn の3人が書いた曲でもう1曲、有名な曲があります。
"I Should Care" という楽曲。それを聴き比べしていきたいと思います。
I Should Care (Axel Stordahl-Paul Weston-Sammy Cahn) / The Four Freshmen (1959)
元々は1945年の映画『Thrill of a Romance』という映画のために書かれた曲で、劇内では 奇しくも Tommy Dorsey の楽団が演奏しました。1959年の The Four Freshmen のアルバム『Love Lost』でこの曲を取り上げています。アレンジ・コンダクトは "Day by Day" 同様、Dick Reynolds です。伸びのある素晴らしいボーカル・ハーモニー。ボーカルアレンジにメンバーの Ken Albers の名前を見つけることができます。
I Should Care (Axel Stordahl-Paul Weston-Sammy Cahn) / Diana Krall (2001)
2001年に Diana Krall がこの曲を取り上げました。Tommy LiPuma のプロデュースの下、Claus Ogerman のアレンジで London Symphony Orchestra の演奏。レコーディングエンジニアは Al Schmitt。とても美しいストリングス。夕暮れに聴きたい曲です。
* Frank Sinatra と Axel Stordahl

* Jo Stafford と Paul Weston (夫妻)

(富田英伸)