ブライアン・ウィルソン来日の思い出
2025.06.12

Love and Mercy
Brian Wilson
(2025)
日本ではビーチ・ボーイズの全盛期にブライアン入りのBB5を見ることはできませんでしたが、ブライアンは1999年の復活来日以降、2012年のBB5リユニオン公演も含め5回も来日してくれ、復活からSMiLEの活動に至る音楽活動を手の届くライブで一緒に体験できたのはとてもありがたいことでした。
Brian Wilson / Beach Boys in Japan
1966年1月 The Beach Boys Tour ※ブライアン不在
1979年8月 The Beach Boys at Japan Jam 江ノ島
1991年11月 The Beach Boys 30th Aniv Tour ※ブライアン不在
1999年7月 Brian Wilson Imagination Tour
2002年2月 Brian Wilson Pet Sounds Tour
2005年2月 Brian Wilson SMiLE Tour
2012年8月 The Beach Boys 50th Aniv Reunion Tour
2016年4月 Brian Wilson Pet Sounds 50th Aniv
※Beach Boysの来日は2012年以降、他にも何度かあります
今回は circustown.net の過去の特集を再構築して、1999年奇跡の復活来日コンサートを振り返ります。
1999年7月Brian Wilson が来日し、大阪と東京で4回のコンサートを行いました。
チケットを購入し、コンサートに足を運ぶ私たちファンの胸の内は、誰しも少々複雑であったのではないでしょうか。カムバック、音楽、歌声、ビーチ・ボーイズの再現、全てに期待と不安がつきまといます。伝説を見届けるんだ!という人から、生きていてくれればただそれで十分という人まで・・・
しかし、家路につく私たちの心には共通の思いがありました。ブライアンの音楽が聴衆全ての心を満たしてくれたと思います。
コンサートを演奏曲目と共に振り返りたいと思います。全29曲、ひとつひとつにストーリーがあるコンサートでした。ここに記したのは筆者が感じたことの断片に過ぎません。皆さんも記憶と想いを紡いであなたのコンサートを記憶していただければ、これがそのきっかけにでもなればと思います。
1. The Little Girl I Once Knew - Single (1965)
コンサートはブライアンの生涯を振り返る短篇ビデオの上映から始まりました。
続いて全く意表をつかれたオープニング・ナンバー。ブライアンは好きなんですね、この曲。『Pet Sounds』前夜を盤に記録したこの曲。ステージ上では鉄琴の不思議なアレンジが強く印象に残りました。
2. This Whole World - Sunflower (1970)
意表をつかれた2連発目。たたみかけるドラムスとヴォーカルの緊張感が絶品の一曲。
ただしブライアンのウォーム・アップには少々難曲のようにも思え、コンサートの展開を多少心配したのも事実。オリジナルのヴォーカルはカールでした、カールの絶唱の一つ。70年代の傑作『Sunflower』から。しかしいい曲ですね。
3. Don't Worry Baby - Shut Down Vol.2 (1964)
3曲目でおなじみの一曲が登場。BB5が最もノッていた64年のヒット曲。
バンドの程よい音の厚みとコーラスのうまさが客席に伝わります。circustown の読者には達郎氏の若き歌声も思い出されるかもしれませんね。
4. Kiss Me, Baby - The Beach Boys Today! (1965)
ソロの天使の声をジェフリー・フォスケットが存分に歌い上げ、ブライアンはマイクのパートへ。バンドの骨格が見え始めました。静かなイントロに夜明けの海を感じさせます。
ほんのりタイトな三連のリズムにうすくかかるダリアンの鉄琴、美しいハーモニーの上で、ブライアンのしわがれ声 (ごめん) 、そこに飛び込むジェフリー・フォスケットのハイトーン。コーラスを上に鉄琴、下にバリトンサックスで挟み込んで、豊かで非常に広がりのある音をつくり出しました。
5. In My Room - Surfer Girl (1963)
6. Surfer Girl - Surfer Girl (1963)
2曲続けて初期の名バラードが登場。どちらもBB5になくてはならない曲。ステージのブライアンの声はハーモニーに隠れてしまうこともあるのですが、まずは彼が部屋から出てきてくれて、一緒に歌えることの幸せ。ちょっと失礼を承知で書けば、このコンサートではブライアンのリード・シンガーとしての存在の希薄さが、却って彼のコンダクターとしての存在を際立たせました。同時に彼と一緒に「ハモる」幸せがありました。
7. California Girls - Summer Days (and Summer Nights!!) (1965)
8. Do It Again - 20/20 (1968)
典型的な「マイク・ラブ」ソング、パンチでゴーといった感じの大ヒット曲2曲がブライアンに帰ってきました。この2曲がこんなに今のブライアンに「はまる」とは。ビートルズでポールがジョンのパートを歌ってもこうは行かないはず。ブライアンは自分の歌わないパートにも愛情と見せ場を仕込んでましたね。
自分が歌ってもいいものをメンバーに歌ってもらう。つまり音楽のねらいがハーモニーとアンサンブルにあったと改めて気付かされます。
9. I Get Around - All Summer Long (1964)
あれ、もう演っちゃうの?と大ヒット曲の登場に、客席は最初のノックダウン。
でも本当のKOがこれから来るのはまだ分かりませんでした。今思い返すと、このコンサートは構成もうまかったですね。
10. Let's Go Away For Awhile - Pet Sounds (1966)
11. Pet Sounds - Pet Sounds (1966)
前半の裏ハイライトともいえる『Pet Sounds』からのインスト2曲。「California Girs〜Do It Again〜I Get Around」と続いた直後に演奏されました。喜びや感傷、あるいは興奮にそれぞれ浸っていた聴衆は、この2曲から純粋な音楽の想像力の世界に引き込まれたと思います。
10名のバック・バンドは管楽器 (サックス、トランペットほか) を操る2名をはじめ、マルチ・プレイヤーを並べ、このインストでみごとに実力を示しました
12. South American - Imagination (1998)
ブライアン最新ソロアルバムからの1曲。コンサートに新曲はやっぱりなくっちゃいけません。共作者のジミー・バフェットもおだやかなビーチ系の曲には定評がある人で、そんな2人が組んだいい曲です。終盤のコーラスの盛り上げも非常によくできています。
13. Surfin' USA - Surfin' USA (1963)
代表曲がここで登場。中締めの一曲です。余談ですが、ブライアンはコンサート中しばし「立て」と「座れ」の司令を客席に飛ばしてました。もっともみんなが好きなこの曲にそんな司令は不要でしたけどね。
14. Back Home - 15 Big Ones (1976)
「Surfin' USA」で終わりでもかまわない充実の前半ラストのやさしい一曲。70年代、さっぱりだったビーチ・ボーイズは、この曲と大ヒットした「Rock And Roll Music」を収録したアルバム『15 Big Ones』で生き返ります。70年中盤以降のビーチ・ボーイズから唯一の選曲。コーラスはホワイト・ドゥー・ワップを思わせます。
===休憩===
15. Wouldn't It Be Nice - Pet Sounds (1966)
後半は頭から強烈パンチ。ご存知『Pet Sounds』の頭を飾る名曲をここに持ってきました。それにしてもこのバック・バンドはよく曲を消化している。複雑なこの曲を、演奏力とちょっと今日性のあるビート感覚で料理していたと思います。若いバンドを起用したのは正解。個人的にはこの曲でコンサートの成功を確信しました。
16. Sloop John B - Pet Sounds (1966)
「Sloop John B」は『Pet Sounds』に必要な楽曲か?という議論があったかと思います。これはアルバム中唯一のブライアンの手にならないカバー曲ですが、ブライアンの気持ちのよい歌唱でそんな議論を忘れます。この曲がなければ『Pet Sounds』は成り立たちません。
17. Darlin' - Wild Honey (1967)
これまたカールの名唱がよみがえるこの曲は、SMiLE時代後の最初のヒット曲。バック・バンドの管楽器が舞台でとても印象的でもありました。
18. Add Some Music To Your Day - Sunflower (1970)
コンサートのハイライト。言葉は無用、歌詞だけ紹介。
Music, when you're alone,
is like a companion for your lonely soul
When day is over I close my tired eyes.
Music is in my soul.
At a movie you can feel it touching your heart.
And on every day of the summer time
You'll hear children chasing ice cream cars.
They'll play it on your wedding day.
There must be 'bout a million ways
To add some music to your day.
Add some music to your day.
Add some music to your day.
19. Lay Down Burden - Imagination (1998)
20. God Only Knows - Pet Sounds (1966)
ブライアン新作からもう1曲に続いて、「God Only Knows」。
客席の落涙数知れず。個人的なことですが、89年の達郎氏のカバー、93年のエルビス・コステロと弦楽四重奏団によるアンコール、そしてついに聴けたご本人。これだけコンサートで驚かされ、忘れられない曲は他にありません。
21. Good Vibrations - Smiley Smile (1966)
最大のヒット曲にして盤上の伝説がついに登場。しかしブライアンは淡々としたもので、「ヒット曲だ楽しんでくれ」という態度。こうして楽しまなくちゃ。棚に上げて飾っちゃいけないんです、ビーチ・ボーイズの曲は。
22. Your Imagination - Imagination (1998)
新作の表題曲。歌詞に旋律に希望があふれていることがなによりもうれしい。
コンサートの成功はこのアルバムがあったからこそ。
23. Help Me, Rhonda - Summer Days (and Summer Nights!!) (1965)
この曲もなくてはなりませんね。とにかく僕は客席からロンダ!コーラスをひたすらブライアンに届けたと思います。
24. Be My Baby - (Ronettes, 1963)
ロネッツの代表曲のカバーにしてスペクターへのオマージュ。このコンサートの選曲のうまさは前にも指摘しましたが、とにかくブライアンに「好き放題」された感じ。ツボと演出と自分のしたいことがキッチリ入っています。しかし本当にスペクターが好きなんですね。信念の男。
25. Caroline, No - Pet Sounds (1966)
あの美しいイントロを生で聞けるとは。ブライアンの声でこの想いのつのった旋律を楽しめるとは。ブライアンは僕たちに、そして自分自身にこの曲を捧げていたように思いました。
26. All Summer Long - All Summer Long (1964)
27. Barbara Ann - Beach Boys' Party! (1965)
28. Fun, Fun, Fun - Shut Down Vol.2 (1964)
最後にお約束のロックンロール・ショー。一番ビーチ・ボーイズ「らしい」曲の3連発。
「All Summer Long」は僕の一番好きな曲。マイクもカールも、それに僕の夏休みと学校の友達も脳裏に出てきました。「Barbara Ann」は僕の思い出の曲。初めてみんなでアカペラをした曲です。ブライアンがマイクを持って立ち上がった時は、やるぞってすぐに分かりました。
「Fun, Fun, Fun」は最高のロックン・ロール。もう何もいらない、ブライアンありがとう、って思ったのですが…
29. Love and Mercy - Brian Wilson (1988)
そして最後の最後にこの曲をブライアンはプレゼントしてくれたのでした。
I was standin' in a bar and watchi' all the people there
Oh the loneliness in this world well it's just not fair
Love and mercy that's what you need tonight
So, love and mercy to you and your frineds tonight
この孤高で無垢の天才の音楽と、同時代に生きて、彼の悩みを少しでもわかり、復活をほんの少しでも助けられたことに感謝しかありません。
(たかはしかつみ)