Roger Nichols : 1970年代以降、MORのシンガー、ソロシンガー達の歌声
2025.06.12

Roger Nichols の4回目 (最終回) です。
第4回 : 1970年代以降、MORのシンガー、ソロシンガー達の歌声
1970年以降、Roger Nichols が作る曲は、Paul Williams という相棒を得て、これまでの作品とはちょっと変化してきました。2人は歌い継がれるような美しいバラードを作ろう、これからは職業作曲家としてやって行こう、という意気込みがあったのではないでしょうか。これには Carpenters への楽曲提供も大きく影響していたと思います。
Roger Nichols の楽曲がこのように多くのレコーディングが存在するのは、多くのミュージシャンから愛されたからに違いありません。Roger Nichols が作った曲を一言で表すとすれば、"切ないメロディー"。これが心の奥底にある記憶と結びついて、響いているんだと思います。
第4回 (最終回) は、1970年代以降、MORのシンガー、ソロシンガー達の歌声中心に聴いてみたいと思います。
I'm Coming To The Best Part Of My Life (John Bettis-Paul Williams) / Mama Cass Elliot (1973)
The Mamas & The Papas のメンバーだった、Mama Cass こと Cass Elliot が1973年リリースしたアルバム『Don't Call Me Mama Anymore』に収録されたナンバー。プロデュースは Carpenters のレコードプロデューサーであった Jack Daugherty です。詩は Richard Carpenter とチームを組んでいた John Bettis。
No Love Today (Roger Nichols-Will Jennings) / Michelle Phillips (1976)
同じく、The Mamas & The Papas のメンバーだったもう1人の女性、Michelle Phillips も歌いました。Roger Nichols らしい切ない失恋メロディ。詩を書いたのは、職業作詞家の Will Jennings です。A&M Records からシングルリリース。アレンジは Gene Page が担当しました。1976年のコメディ映画『走れ走れ!救急車!』 (MOTHER, JUGS & SPEED) の挿入歌でした。
Talk It Over In The Morning (Roger Nichols-Paul Williams) / Anne Murray (1971)
カナダの Anne Murray が1971年にリリースしたアルバム『Talk It Over In The Morning』から表題曲。後にシングルカットされました。このアルバムでは、"Let Me Be The One" も取り上げています。ストリングもとても心地よく鳴っています。同年、Jack Jones 、Engelbert Humperdinck などもこの曲を取り上げています。
Somebody Waiting (Roger Nichols-Paul Williams) / Karen Wyman (1973)
Somebody Waiting (Roger Nichols-Paul Williams) / Roger Nichols and Paul Williams (DEMO、1970)
Karen Wyman というブロンクス出身のシンガーが "Somebody Waiting" を歌っています。プロデュース、アレンジは Peppermint Rainbow などを手がけた Paul Leka が担当しています。気持ちこもった、いい歌声をしています。初出は1971年の Eydie Gorme だと思われます。
1970年の Almo / Irving Music Records からリリースされた非売品デモアルバム『We've Only Just Begun』のバージョンも併せて。こういった切ない曲調には Paul Williams の声がしっくり心に染みてきます。
Times Of Your Life (Bill Lane-Roger Nichols) / Paul Anka (1975)
Times Of Your Life (Bill Lane-Roger Nichols) From "Kodak film TV commercial" / Vicki Carr (1975)
Paul Anka が1975年にリリースしたアルバム『Times Of Your Life』から表題曲を。バックボーカルを担当したのは Charles Chalmers を中心としたボーカルグループ Rhodes, Chalmers & Rhodes 。アレンジを担当したのはイギリスで活動していた Johnny Harris です。
元々この曲はコダック社のCMだったようで歌ったのは Vicki Carr でした。長らく住んでいた家を手放す日、巣立った家族を振り返る素敵なCMです。
ネッスル日本CM "The One World of Nescafé" (1982)
もう1曲CMを。1980年以降、Roger Nichols は本国アメリカでCM曲も多く手掛けていたようです。日本国内でもこのネッスル日本のCMがお茶の間に流れ、お馴染みとなっていました。後にタイトルが "One World Of You And Me" となって正式リリースされます。
When You've Got What It Takes (Bill Lane-Roger Nichols) / Carpenters (1981)
Carpenters は1980年代に入っても Roger Nichols の楽曲を取り上げています。1981年リリースのアルバム『Made In America』に収録された曲。詩を書いたのは、この頃にチームを組んでいた Bill Lane という人。とっても可愛らしい曲です。
20世紀初頭、アメリカのポピュラー音楽を牽引してきたのは東海岸でした。東海岸ニューヨークのマンハッタン、ブロードウェイミュージカル音楽など、特に作曲家が主体となって音楽が生まれていた頃、例えば、1910年代、1920年代、Jerome Kern (1885年生まれ) 、Irving Berlin (1888年生まれ) といった音楽家達がまず、ポピュラー音楽の源流を紡ぎ、1950年代、1960年代、ブリルビル時代を迎え、Burt Bacharach (1928年生まれ) 達がそれを繋ぎ、そして最後の後継者となったのが、西海岸で音楽活動をした Roger Nichols (1940年生まれ) だったのではないかと思っています。そういった意味でも音楽産業、音楽形態が大きく変化していく中、今年 (2025年) 、Roger Nichols さんが亡くなったことは1つの音楽時代が終焉を迎えた感があります。
最後にもう一度 "We've Only Just Begun" を。1970年に Mark Lindsay のアルバム『Silverbird』に収録されました。プロデュースは Jerry Fuller。そして、アレンジを担当したのは Artie Butler です。手本となったのは Roger Nichols 本人がアレンジを施したCMのバージョンもしくはオリジナルの Freddie Allen のバージョンだと思います。途中から入ってくるストリングス、いつ聴いても気持ちが前向きになれる僕の最も好きな曲です。
We've Only Just Begun (Roger Nichols-Paul Williams) / Mark Lindsay (1970)
SSB では2007年4月22日から3週に渡って『Roger Nichols 特集』が組まれました。こちらも参照下さい。
SSB Roger Nichols 特集 Part 1
SSB Roger Nichols 特集 Part 2
SSB Roger Nichols 特集 Part 3
(富田英伸)