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Roger Nichols : We’ve Only Just Begun

2025.06.05
We've Only Just Begun

We've Only Just Begun

Roger Nichols Part 3

(1970)

#Songwriter

Songwriterシリーズ
Roger Nichols の3回目です。


第3回 : Roger Nichols : We've Only Just Begun


1970年、カリフォルニア州のクロッカー銀行 (Crocker-Citizens National Bank) は当時知名度を上げるため、若い顧客を引き付ける広告キャンペーンを模索していました。そこで銀行は Hal Riney という若い広告ディレクターを雇用します。Hal Riney は後にロナルド・レーガン (Ronald Reagan) の1984年大統領選キャンペーンで成功を収める人です。

Hal Riney は「まだ道のりは長い。私たち銀行はそこにたどり着く手伝いをしたい」とするCMコピーと結婚するカップルが登場する映像コンセプトを持って、ソングライターチーム Roger Nichols-Paul Williams の元を訪れます。2人は彼の意をしっかりくみ取って、その日のうちにCM曲を書き上げます。これが "We've Only Just Begun" の原型となりました。そしてこのクロッカー銀行のCMはカリフォルニア州でオンエアされました。

The Crocker Bank CM "結婚" (1970)


オンエアとなったCMは2つのバースしかなくブリッジもないバージョンだったため、フルバージョン作成のために、Roger Nichols の友人でグループ The Parade のメンバーである Smokey Roberds に声をかけます。Smokey Roberds の本名である Freddie Allen 名義でシングルを制作、1970年 White Whale Records からリリースされました。これが "We've Only Just Begun" の初めての録音となります。CMのバージョンに即したアレンジをしたのは Roger Nichols 本人です。

We've Only Just Begun (Roger Nichols-Paul Williams) / Freddie Allen (aka Smokey Roberds) (1970)


一方、クロッカー銀行のCMは好評を得、「結婚」バージョンに加え「新しい仕事」「引っ越し」バージョンなどが作られ、"We've Only Just Begun" は多くの人々の心に響き、CMとしても成功します。中には銀行に本当の結婚式や卒業式にこの曲を使いたいとの問い合わせなどもあったそうです。

The Crocker Bank CM "新しい仕事"

The Crocker Bank CM "引っ越し"


この一連のクロッカー銀行のCMに反応した音楽家がいました。Carpenters の Richard Carpenter です。彼はCMで歌っている人物が同じレコード会社 A&M Records 所属の Paul Williams だと気づきました。レコード会社建屋内で Paul Williams に出会った時、この曲に賞賛を送り、Carpenters のレパートリーに加えたい旨の話を伝えました。

"We've Only Just Begun" は Carpenters の1970年のセカンドアルバム『Close to You』に収録。Carpenters の "We've Only Just Begun" は1970年晩夏にシングルリリース。U.S. Billboard Hot 100 の2位を記録、その後全米のみならず、全世界で愛される曲となっていきます。Richard Carpenter による落ち着いたアレンジと素晴らしいコーラスワークです。

We've Only Just Begun (Roger Nichols-Paul Williams) / Carpenters (1970)




"We've Only Just Begun" 以外に Carpenters が取り上げた曲もいくつか聴いていきたいと思います。

Rainy Days And Mondays (Roger Nichols-Paul Williams) / Carpenters (1971)

1971年、Carpenters のサードアルバムにあたるアルバム『The Carpenters』に収録されました。シングルカットされ、Billboard Hot 100 の2位を記録。誰もが感じることがある"雨の日と月曜日" の気分ダウン。これをこの優しいボーカルで包まれるとほんとに癒されます。冒頭と最後の切ないハーモニカは Tommy Morgn によるもの。


Let Me Be the One (Roger Nichols-Paul Williams) / Carpenters (1971)

Let Me Be the One (Roger Nichols-Paul Williams) / Nanette Workman (1970)

同じく、アルバム『The Carpenters』に収録。日本語タイトル"あなたの影になりたい"は秀逸でした。初出は1970年の Cathy Carlson のバージョンもしくは Nanette Workman のバージョン。これはアレンジ= Glen Spreen、プロデュース= Tommy Cogbill と珍しくメンフィスでの録音となっています。今回はこの Nanette Workman のバージョンも併せて。


I Won't Last a Day Without You (Roger Nichols-Paul Williams) / Carpenters (1972)

1972年のアルバム『A Song for You』に収録。これもシングルカットされ、US Billboard Hot 100 の11位を記録。詩には「虹を越えられない時〜 (when there's no getting over that rainbow) 」がありますが、Paul Williams によると1939年の映画『オズの魔法使い』 (The Wizard of Oz) の "Over the Rainbow" (虹の彼方に) を意識して書いたそうです。


* Paul Williams については以下を参照ください。
Cinema Music Composers シリーズ、Paul Williams

(富田英伸)