2020.05.01 - Cinema Music Composers
Singin' in the Rain Singin' in the Rain
Nacio Herb Brown

(1929)

Cinema Music Composers シリーズ
今回は Nacio Herb Brown を取り上げたいと思います。

1952年に製作された映画『雨に唄えば』(SINGIN' IN THE RAIN)。
多くの方が観た映画だと思いますが、この作品に流れた曲の多くはこの作品が製作された以前に作られた楽曲です。作曲したのはニューメキシコ州出身の Nacio Herb Brown という音楽家でした。サイレント映画からトーキー映画になって間もない頃、ミュージカル映画に携わった人です。今回は Nacio Herb Brown の足跡を辿るとともに、映画『雨に唄えば』の数々のナンバーとそのオリジナルを比較して聴いてみたいと思います。

Nacio Herb Brown は1896年、ニューメキシコ州デミングで生まれています。幼い時は母からピアノを習っていたそうです。成人してからは仕立屋や不動産業を営んでいましたが、ピアノ演奏と作曲は続けていたとのこと。

1920年代のアメリカ映画はまだサイレント映画が主流で、ワーナー・ブラザースが1927年に初の長編トーキー映画『ジャズ・シンガー』(JAZZ SINGER)を公開にすると、各映画会社がトーキー映画制作に乗り出すようになります。MGM映画はミュージカル映画を制作を試み、会社側も映画製作のために優れた作曲家が急遽必要となり、Nacio Herb Brown はMGM映画に雇われます。そこには作詞家の Arthur Freed がおり、2人はチームで楽曲を作るようになります。

1929年制作の映画『ブロードウェイ・メロディー』(THE BROADWAY MELODY)、1934年制作の映画『ハリウッド・パーティー』(HOLLYWOOD PARTY)、1935年制作の映画『踊るブロードウェイ』(BROADWAY MELODY OF 1936)、1937年制作の映画『踊る不夜城』(BROADWAY MELODY OF 1938)といった作品の楽曲を2人で書いていきました。

1940年代になると、ビジネス手腕に長けていた作詞家の Arthur Freed はプロデューサーとして多くのミュージカルを手掛け、名プロデューサーとなります。1950年代になり、MGM映画の重役となった Arthur Freed はかつての盟友、Nacio Herb Brown と一緒に作ってきた楽曲を蘇らせて、1本のミュージカル映画を作ろうと考えます。それもこの時代、ミュージカル映画黎明期における苦労や様々な出来事を織り交ぜて。このことを監督のスタンリー・ドーネン(Stanley Donen)、監督兼主演のジーン・ケリー(Gene Kelly)に相談し、1952年に映画『雨に唄えば』(SINGIN' IN THE RAIN)が生まれました。

今ではミュージカル映画ファンに愛された楽曲ばかりですが、もし映画『雨に唄えば』が製作されなかったら、作曲家、Nacio Herb Brown の名前も彼が作った楽曲も遠い記憶となり、歴史の彼方となっていたのかも知れません。

映画『雨に唄えば』の数々のナンバーとそのオリジナルを聴き比べしてみましょう。ちなみに1952年の映画『雨に唄えば』の音楽のオーケストレーションは、John Williams の師匠筋にあたる Alexander Courage が参加しています。


Good Morning(Nacio Herb Brown-Arthur Freed) From "BABES IN ARMS" / Mickey Rooney and Judy Garland(1939)

Good Morning(Nacio Herb Brown-Arthur Freed) From "SINGIN' IN THE RAIN" / Gene Kelly、Donald O'Connor and Debbie Reynolds(1952)

1曲目は、"Good Morning"。初出は1939年の映画『青春一座』(BABES IN ARMS)。ミッキー・ルーニー(Mickey Rooney)とジュディ・ガーランド(Judy Garland)のゴールデンコンビが歌いました。ジュディ・ガーランドをスターにしたのもプロデューサー、Arthur Freed だと言われています。

映画『雨に唄えば』では徹夜した3人が、朝を迎えて溌溂と歌います。デビー・レイノルズ(Debbie Reynolds)はこの頃殆ど新人で、元々ダンサーではなく体操選手だったそうです。しかし身体能力も高かったため芸達者なジーン・ケリーとドナルド・オコナー(Donald O'Connor)にしっかりついて、見事なタップやダンスを披露しています。


All I Do is Dream of You(Nacio Herb Brown-Arthur Freed) From "SADIE MCKEE" / Gene Raymond (1934)

All I Do is Dream of You(Nacio Herb Brown-Arthur Freed) From "SINGIN' IN THE RAIN" / Debbie Reynolds and Ohers(1952)

初出は1934年の映画『蛍の光』(SADIE MCKEE)。2階観客席にいるジーン・レイモンド(Gene Raymond)が1階観客席にいるジョーン・クロフォード(Joan Crawford)に向かってウクレレで歌い出します。

映画『雨に唄えば』では、デビー・レイノルズの仕事がイベントガールだとジーン・ケリーにバレて、なんともバツの悪いシーン。でもとってもキュートなダンスシーンでとっても好きなシーン。一緒に踊っているイベントガールの中には、Magic Voicesシリーズに登場した Sue Allen さんもいるそうです。


You Are My Lucky Star(Nacio Herb Brown-Arthur Freed) From "BROADWAY MELODY OF 1936" / Eleanor Powell(1935)

You Are My Lucky Star(Nacio Herb Brown-Arthur Freed) From "SINGIN' IN THE RAIN" Outtake / Debbie Reynolds(1952)

初出は1935年の映画『踊るブロードウェイ』(BROADWAY MELODY OF 1936)。エリノア・パウエル(Eleanor Powell)が素晴らしいバレエを披露しています。

映画『雨に唄えば』の方、この映像はアウトテイク映像で映画本篇には登場しませんでした。本編のデビー・レイノルズの歌声は Betty Noyes という女性がアテました。劇中ではリナ役のジーン・ヘイゲン(Jean Hagen)の歌声をデビー・レイノルズがアテるという風にお話が進みますが、そのデビー・レイノルズの歌声も別の女性歌手がアテており、歌吹替が三重構造になっているんですね。しかしこのアウトテイク映像の声はデビー・レイノルズ本人による歌声のようです。


You Were Meant For Me(Nacio Herb Brown-Arthur Freed) From "THE BROADWAY MELODY" / Conrad Nagel(1929)

You Were Meant For Me(Nacio Herb Brown-Arthur Freed) From "SINGIN' IN THE RAIN" / Gene Kelly and Debbie Reynolds(1952)

初出は1929年の映画『ブロードウェイ・メロディー』(THE BROADWAY MELODY)』。当時、ステージやラジオで活躍していた Conrad Nagel という人がピアノの弾き語りで歌っています。

映画『雨に唄えば』の方ではスタジオセットを小道具にしてうまく演出しています。とてもロマンティックなシーンです。デビー・レイノルズはダンスに関してはほとんど経験がなく、うまくダンスができず、撮影の夜、ピアノの下でうずくまって泣いていたそうです。それを見つけたのがフレッド・アステア(Fred Astaire)で彼女のダンスへの助言、指導をしたという逸話が残っています。


Singin' in the Rain(Nacio Herb Brown-Arthur Freed) From "THE BROADWAY MELODY"(1929)

Singin' in the Rain(Nacio Herb Brown-Arthur Freed) From "THE BROADWAY MELODY" / Ukelele Ike aka Cliff Edwards(1929)

Singin' in the Rain(Nacio Herb Brown-Arthur Freed) From "SINGIN' IN THE RAIN"/ Gene Kelly(1952)

初出は1929年の映画『ブロードウェイ・メロディー』(THE BROADWAY MELODY)。この映像は歴史的シーンとして1974年のミュージカル・アンソロジー映画『ザッツ・エンタテインメント』(THAT'S ENTERTAINMENT!)の冒頭にも登場しました。ウクレレで歌っているのは、Ukelele Ike ことクリフ・ エドワーズ(Cliff Edwards)で、後に1940年のディズニー映画『ピノキオ』(Walt Disney's Pinocchio)で"When You Wish Upon a Star" を歌うコオロギのジミニー・クリケットの声をアテました。

映画『雨に唄えば』の "Singin' in the Rain"、何度見てもいいシーンです。しかし、ジーン・ケリーは撮影後の夜、39度の高熱を出したそうです!

* 写真は Nacio Herb Brown(左)、Arthur Freed(右)

(富田英伸)

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