2020.03.23 - Magic Voice
I Will Love You I Will Love You
Shelby Flint

(1958)

(2020年3月22日SSB「ワーナー・ナゲッツ特集」で、Shelby Flint "Magic Wand" がかかったので)

Magic Voicesシリーズ
今回は Shelby Flint を取り上げます。

僕が初めて Shelby Flint のことを書いたのは2001年。その頃は殆どの音源が未CD化の状態でした。それが近年になり、Variant Records からリリースされたオリジナルアルバム3枚の再発、そして Variant Records 時代のシングル盤も『Shelby Flint The Complete Valiant Singles 』(2011)としてCD編纂されました。また Shelby Flint の最近の様子もインターネットを通じてわかるようになりました。そのことを踏まえ、今回は3回に分けて Shelby Flint について特集していきたいと思っています。

第1回目:1950年後期の初期の頃と1960年代の Variant Records 時代
第2回目:1970年代のスタジオミュージシャン時代
第3回目:2000年代以降の Shelby Flint の様子


第1回目:1950年後期の初期の頃と1960年代の Variant Records 時代

Shelby Flint は1939年、カリフォルニア州ノース・ハリウッド生まれ。幼い頃からピアノを習っていたそうです。15才でギターを弾き自分で曲を作り始めました。

1958年、Shelby Flint が18才の時、1人の若きソングライターと出会います。ニューヨーク生まれの Barry DeVorzon です。その年、彼は Al Allen と共作し、Marty Robbins に提供した楽曲、"Just Married" がC&Wチャートの3位のヒットとなり、多少のお金を持っていました。その資金を元手に Shelby Flint を連れて Cadence Records の門を叩きます。

Cadence Records はその頃、 The Everly Brothers を擁していて最も勢いのあるレーベルでした。Cadence Records の設立者で優秀なアレンジャーでもある Archie Bleyer は Shelby Flint の歌声と Shelby Flint 自身が作ったその楽曲の良さに惚れ込み、自ら進んでその曲のアレンジを行いました。その時に生まれた曲が "I Will Love You" でした。B面には Shelby Flint と Barry DeVorzon が共作した "Oh, I Miss Him So" が吹き込まれました。そのシングルは残念ながらヒットに至りませんでしたが、後に Richard Chamberlain、The Lettermen、Robin Ward が "I Will Love You" を取り上げ、隠れた名曲として長く愛されました。

1960年、Barry DeVorzon は自身のレコード会社、Valiant Records を設立します。そこに再度 Shelby Flint を呼び寄せ、Valiant Records 第1弾シングルとして彼女自身の作品である "Angel On My Shoulder" をリリース。Billboard Hot 100 の最高位22位となり、Valiant Records は順風満帆な船出となります。

翌年の1961年、Valiant Records で Perry Botkin Jr. のアレンジで再度、"I Will Love You" が録音され、それを含んだアルバム『Shelby Flint』がリリース。他に2枚のアルバムと10枚程のシングルをリリースしました。

今回は初期の Cadence Records 時代とそれに続く、Valiant Records の時代の作品を聴いていきたいと思います。


I Will Love You(Shelby Flint) / Shelby Flint(Cadence Records、1958)

I Will Love You(Shelby Flint) / Shelby Flint(Valiant Records、1961)

デビューとなった "I Will Love You" の1958年の Cadence Records 盤と1961年の Valiant Records の2つのバージョンの聴き比べを。
Cadence Records 盤は前述の通り、Cadence Records の設立者でアレンジャーでもある Archie Bleyer がアレンジを実施しています。バックコーラスには1948年に結成、Elvis Presley のバックコーラスも担当したこともある名門、The Jordanaires が担当しました。一方、Valiant Records 盤のアレンジは、Perry Botkin Jr.。ちょっと大人になった Shelby Flint の声です。


Magic Wand(Berdie Abrams-Hank Levine) / Shelby Flint(1961)

"Angel On My Shoulder" に続くシングル第2弾としてリリース。オリジナルは1959年、Warner Bros. Records からリリースした The Tattletales というグループ。曲を書いたのは、Hank Levine で、Barry DeVorzon が1950年代後期に在籍したバンド、John Buck And The Blazers ‎の頃からの知り合いです。後にアレンジャーに転身し、The Fleetwoods や初期の Philles Records の作品を手掛けた人です。Magic Wand、"魔法の杖"、童話の世界に迷い込むような、Shelby Flint の声にぴったりなとっても可愛いらしい曲です。


It Really Wouldn't Matter(Bodie Chandler) / Shelby Flint(1963)

4枚目のシングル "Little Dancing Doll" のB面に収録されていたナンバー。曲を書いたのは Barry (Barry DeVorzon) and the Tamerlanes に在籍していた Bodie Chandler。後に The Cyrkle の "The Visit (she was here)" など優れた作品を書くことになります。1963年制作とはまったく思えない憂いを持ったメロディーでずっと聴いても飽きることはありません。Perry Botkin Jr. のオーケストレーションも素晴らしいです。ちなみにA面 "Little Dancing Doll" は Bodie Chandler と Barry DeVorzon の共作曲です。


Our Town(Shelby Flint) / Shelby Flint(1966)

1964年にリリースされたシングルバージョンと1966年のアルバム『Cast Your Fate To The Wind』に収録されたアルバムバージョンの2通りありますが、今回はアルバムバージョンを。Shelby Flint の自作による曲ですが、聴いての通り、ジャズの雰囲気を持ったナンバー。Perry Botkin Jr. の繊細なストリングスもいいんですね。Shelby Flint は最終的にジャズ界に身を置くことになりますが、それまでフォーク、ポップス、そしてジャズと幅広く、そして真摯にその各分野に取り組んできた方だと思います。今宵はその静かな声に酔いしれましょう。


Cast Your Fate To The Wind(Vince Guaraldi-Carel Werber) / Shelby Flint(1966)

Shelby Flint 歌った楽曲で Billboard Hot 100 に入ったのは2曲。1曲は "Angel On My Shoulder" でもう1曲がこの曲です。Billboard Hot 100 の61位を記録。元々は1963年の Vince Guaraldi の3人トリオのジャズ・インストルメンタルナンバーですが、この曲では Perry Botkin Jr. がとても素晴らしいアレンジを施しています。ラストの辺り、Petuka Clark "Down Town " に負けないくらいのホーンアレンジ、トランペットが鳴り響き、音が広がっていきます。


(富田英伸)

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