2016.02.07
On Your Face On Your Face
Earth,Wind & Fire

Spirit (1976)

さてファンクの続き。前回はParliamentの傑作『Mothership Connection』を紹介しました。このアルバムが出た1976年はソウル、ファンクにとって極めて歴史的な年だったと思います。Stevie Wonderの『Song In The Key Of Life』、Marvin Gayeは『I Want You』、Aretha FranklinはCurtis Mayfieldと組んで『Sparkle』を。このEarth,Wind & Fire(EW&F)の『Spirit』もそうした時代のストリームにありました。もっと言えば前年の彼らの傑作『Gratitude』もCurtisの『There’s No Place Like America Today』が出た年にリリースされたりと。こうやって並べてみるとEW&Fの全盛期であった70年代中期のソウル・シーンの百花繚乱の輝きは眩いほどです。

EW&Fはそうした時代背景の中で様々な音楽的な要素の結節点であったような気がします。グループの中心メンバーであったMaurice Whiteはメンフィス生まれ。後にシカゴに移り住み、キャリアの初期にRamsey Lewisのトリオでドラムを叩いたこともあって、彼らの音楽性には特にキャリアの初期のおいてジャズの要素が垣間見られます。同時期に影響を受けたシカゴのR&B、さらにはBlood,Sweat & Tears(なんとなくグループ名似てますね)やChicagoあたりのブラス・ロックからの影響。交流のあったDonny Hathawayらからのニューソウルのテイスト、さらにはボサノヴァをはじめとするラテン・フレーバーに、アフリカン・アメリカンのアイデンティティを意識的に纏ったところなどなど・・・。もちろんPファンクやOhio Playersら同時期のファンクも横目で見ていたふしが・・・。つまりEW&Fはこれらの時代の音のまさにクロスオーヴァーだった思うのです。70年代のあらゆるジャンルの音楽的ムーブメントと密接に呼応していた。

そしてそうした音楽性を発揮するのに重要な役割を果たしていたのが、Maurice Whiteとともにプロデュースとアレンジを手掛けていたCharles Stepneyの存在だったと思います。
こうしたクロスオーヴァーな音作りはPファンク勢とは対照的に白人のリスナーにも受け入れられることを狙っていたようです。事実75年のシングル「Shining Star」はR&Bチャートのみならずポップチャートでも1位を獲得します。白人にも受け入れられるファンク・ビート。こうした流れがディスコ・ムーヴメントに与えた影響は大きなものがあったのではないでしょうか。

そんなCharles Stepneyと共同制作した75年の『Gratitude』と続くこの『Spirit』はまさに彼らのキャリア中の最高傑作と言っていいのではないかと思います。
とりわけ『Spirit』は人の手による寸分の隙もない16ビートと心地よいシンコペーションの到達点ともいえる出来映えです。はねてぐしゃっとしたサウンドではなくて、こうした揺らぎのないサウンドが我々の世代のダンス・ミュージック。エンジニアのGeorge Massenburgの手腕も大いに発揮されていて、スタジオ・テクノロジーの進歩とも相まって分離のいいサウンドの手法が確立されたのもこのアルバムではないかと思います。

Charles Stepneyはこのアルバムのレコーディング中に心臓発作で急死してしまいます。アルバムは彼に捧げられるのですが、Charlesの死とともに以降の彼らの作品はどこか散漫な印象になっていきます。宇宙とかピラミッドとか・・・。

ファンク・バンドと言うにはあまりにも多彩な顔を持っていたのがEW&Fでした。いずれにしてもMaurice Whiteの意思とセンス、卓越した音楽的な才能こそがEW&Fそのものだったのではないでしょうか。
ファンク特集、ちょっと横道にそれてディスコの道に分け入ってみたいと思います。

Maurice White – Dec 19,1941 - Feb 3, 2016 rest in peace




今日の1曲


(Kazumasa Wakimoto)




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