第4回 : 中村欣嗣さん



素人のためのオーディオ講座

-本職であるオーディオについてお伺いしたいのですが。中村さんのオーディオ哲学と言うか、例えばポップスと親和性の高いオーディオ機器の選び方とか、音が良くなるちょっとした工夫とかその辺の話をお聞かせ願いたいのですが。
 まず、スピーカーから言うとなるべくデカいスピーカーですね。安くてもいいからデカいスピーカーがいいですね。なぜならば小さい方が良ければベースという楽器はもっと小さくなっているはずですから。ベースの音があの大きさでなくては出ないということは、なるべくあの大きさに近づけてやる必要があるということなんです。

-日本の住宅事情ではなかなか大きなスピーカーが置けないということもあると思うのですが。
 難しい問題ですが、小さい部屋で聴くから小さいスピーカーでアンプも小さい出力のものでいいよということになると、低音も中音も何もなくなっちゃうんです。小さいスピーカーは音量を上げないと低音が出ないんです。大きい音で聴けないんだったら小さい音で低音が出るスピーカーを買うしかないので、そうすると結論的にはデカくなる。小さいスピーカーで小さい音で聴くと本当に低音が出ないんですよ。ところが大きなスピーカーだったら小さい音でも結構低音が出ます。

-大きなスピーカーだったら小さい音で聴くときにもラウドネスで補正してやる必要もないということですね。
 そうですね。そういうことをすると本来のバランスを崩しちゃうんですね。ということは作った人のバランスを崩しちゃう。

-ということはトーン・コントロールで調整もしない方がいいということですか。
 いや、本当の音を知っている人だったらいいと思います。
中村さんが「立って寝てでも手に入れろ」とおっしゃる『JBL 4344MkII』。
2001年3月21日、ナイアガラーはこれから発せられる「ロンバケ」に震え上がった。
“ブルーアイズ”と呼ばれるレベルメーターが美しい“Mcintosh”のアンプ。
JBLのスピーカーとの相性は抜群!
-原音に近づけるためにやるんだったら意義があると。
 ただ(トーン調整を)やりますけどね。さっき言ったことと裏腹になるかもしれませんが、トーン・コントロールの付いていないアンプを買っちゃ駄目です。補正は否定しません。やっぱり補正が必要な場合がある。耳も人によって違いますし感じ方が違いますから。それを踏まえた上でオーディオを選ぶというのは本来すごく難しいことなんです。聴く側が「俺の山下達郎はこれでいい」と思えばそれで良いんですね。普通の人はむずかしいことを考えなくてもそれでいいと思います。ただ言えることは、ある程度の大きさにしてやった方がより(原音に)近くなることは間違いない。ただ一概にこれがベストであるというのはオーディオにはないんです。
 それからもう一つ、ロックを聴く場合の基本としてアメリカものがいいですね。アメリカのものの方がちゃんとハートが出てきますね、やっぱり。日本のものではななかなか出てこない。特に日本のメーカーさんの技術者というのは音楽を聴いていない人が多い。勉強はよくしていると思うけど、音楽を知らない人が製品を作っても良い音を再生できるはずがないと思いますね。

-コスト・パフォーマンスと言いますか、金額的なこととの兼ね合いっていうのもやっぱりあるんですか。
 あるところを境にして、高ければ高くなるほどオリジナルの音と開きが出てきます。たとえばこのラインがオリジナルの音に近いとするじゃないですか。ところがそこを超えると音がどんどんきれいになっていく。きれいになっていくとオリジナルに忠実じゃなくなっていくわけですね。例えば、山下達郎さんの音楽をきれいだとは思わないでしょ、ハートは打つけど。

-オーディオ的に・・・。
 そう、オーディオ的に。そんなにきれいではないけど、でも感動する。それはとても3時間では喋り尽くせないので(笑)。要するにそのレベルから上の音というのは必要ないんですね。大滝さんや山下さんが使っているオーディオ・システムは僕から言わせると頂上に近いものがある。

-ご本人達のクオリティ以上のものをご本人達が聴いているということなんですか。
 いやいや、クオリティが合っている。自分たちが出したい音はちゃんと聞こえてくるということなんです。そうでないと納得してくれないから。
-話は変わりますが、CDの音は2万hz以上は聞こえないと言われていますが、それを最近は人工的に再生するCDプレーヤーがいっぱい出ています。それなりに良い音がすると思うのですがいかがですか。
 良い音はすると思います。でも良い音楽は鳴っていないと思います。2万hz以上の音は人間には聞こえないのですが、何でそれを感じるかと言えば体で感じるらしいんですね。そうやってレンジを広げていくと音が平面になっていって奥行きがなくなるんですよ。そうやって全部見せちゃうと音楽って魅力なくなるんですよ。いいシステムっていうのはどんどん平面になってくるから見せちゃいけないところまで見せちゃうんですよ。例えて言うなら、7thコードの上の7度の音は実音のキーの音よりも大きく鳴っちゃいけないんですよ。演奏する側もそうだと思うんですよね。7th の人は他のホルンの人がフォルテで吹いていてもメゾフォルテで加減して吹いているはずなんですね。そうしないとハーモニーって汚くなっちゃうから。それがもろに出てきてしまうから僕は音楽的でない、と言っているんです。

-要するに本来バランス良く鳴ってたもののバランスを押し上げて無理矢理にバイアスをかけてそのバランスを崩しちゃうみたいな感じですね。そういう聞こえるか聞こえないかっていうところは音楽の「だし」だと思いますね。「だし」の鰯の味だけが前面に出て来ちゃうとおつゆっておいしくなくなると思うんです。鰯が入っているか入っていないか分からないけど、入っていないとおいしくない。
 その通りですね。みそ汁飲んでいるのに鰯の汁を飲むか、みたいなね。

-そういうものの一つの良い例が『A Long Vacation』ですね。
 そうですね。でも今回は結構見せてると思います。
中村さんが愛用するポータブル機。
ヘッドフォンは勿論『SONY MDR-CD900』をミニプラグ仕様にしたもの。
-手持ちのシステムで音が良くなる工夫ってなんでしょう。
 まず、電源をチェックした方がいいですね。コードも付属品のコードをやめて、千円でも2千円でも良いんでチョット太めのコードを使ってみて下さい。コードというのは血管で電流はそこを流れる血液ですから。
 それから「サンデー・ソング・ブック」をエア・チェックするときくらいは、パソコンの電源を切り蛍光灯もつけない方がいい。そうすることで、いままで80点の状態だったら、90点以上になります。アパートの他の家でパソコンや蛍光灯使っていたら同じことじゃないの、という人もいるけれど、やっぱり違いますよ。その切った時の音と切らなかった時の音の比較はこのソニーのヘッドフォン(MDR-CD900)でチェックしてほしい。10万円の予算でステレオ一式揃えるんだったら、CDプレーヤーとこのヘッドフォンだけで10万円かけた方がずっといい。

-達郎さんもご愛用と聞いて、多くの達郎ファンが持っていると思います。
 これはホームページにも書いてあるけれど、チェックしまくってやっと見つけたシルバーのミニプラグ。

-わざわざミニプラグに代えたというのは、どんな意味があるんですか?
 今はポータブルのCDプレーヤー、MDプレーヤーをはじめ、ミニプラグが主流ですよね。この大きいプラグから小さいプラグへのアダプターをつけると、プレーヤーの小さい穴がいかれるんですよ。それでこの先っちょをいろいろと探しまくって、全部試してこれが一番良かった。それでこれを山下さんに聞かせたら、「アダプターでこんなに音が違うんだ、まいったなあ」って驚いていましたよ。それでとりあえず10個くらい買って帰りましたよ。

-ちなみにこれはおいくらくらいするんですか?
 1,000円です。1,000円で音が良くなるんだったら文句無しでしょ。小から大へのアダプターは400円です。ヘッドフォン持ってくれば付けかえてあげますよ。

-このミニプラグと小から大へのアダプターの組み合わせの方がオリジナルより音が良くなる、という訳ではないですよね。
 良くなるかもしれないですよ。この組み合わせの方がフィルターがかかって、聞きやすいかもしれない。
 これの関連でケーブルの話しをちょっとすると、日本での販売をやめてしまって、今は手に入らないのですが、大滝さんも山下さんも惚れ込んでいるスイスのイソーラというメーカーの1メートルが8,000円くらいのケーブルがあるんです。CDプレーヤーとアンプの間はこれくらいの物を使ってほしいですね。それから、アンプとヘッドフォンの間に入れると、このケーブルの影響がもろにでるから、Shadows の音が生き生きしちゃうんですよ。こういう工夫をしていくといいんですよ。以前に大滝さんのために何本も作ったんですが、今はなくなっちゃったので、「大滝さんの家にいったら何本かもらってきてよ」と萩原健太さんから言われてるんですよ。イソーラの製品を扱ってくれる代理店をいろいろ打診しているんだけど、なかなかいい返事がないんですよ。スイス系はダメなのかなあ。
 ところで、僕はいつも言うんだけど、3,000円のCDを10万円のセットで聴いたとすると、3,000円のCDは1,000円の音しかしないけど、30万円のセットで聞けば3,000円の音がするんですよ。
-30万円だったらちょっと頑張れば、というところですよね。
 だから、せいぜいアンプ、チューナー、スピーカー10万ずつ、まあチューナーは5万円でもいいけどね。僕は昔からエアチェック・オタクだったから、いいチューナーが出るとすぐに買って、今は定価40万円のものを使っているけれど。それのほうがレコード買うより安いと思ってたから。昔はアルバム全部放送したりしてたでしょ。今はそういうのは無いけれども。スピーカーは10万円出せばJBLの4311が買えるんですよ。

-私、4311使ってます。でもなかなかミッドロウが出なくて苦労してるんですよ。
 ああ、それじゃあせっかくだからミッドロウを出す方法を教えましょうか。今、ハイのアッテネーターはフラットになっていますか?

-いえ、上げています。
 ミッドロウを出すためには、上は下げるんです。上を落とすと山下さんや大滝さんのサウンドはばっちり! それは4344でも同じ。それをしないと、下からの倍音がつながらないんです。倍音をつなげてやらないと、下は下、真ん中は真ん中、上は上、というようにばらばらに分離してしまう。ミッドロウを出すためには上を下げて、倍音をつなげないとダメ。ミッドはフラットでOKです。みんな上げちゃうんですよ。上げるとシャンシャンするだけで、上が出なくなる。上を下げれば、「ああ、上が伸びたあ」ということになるんです。大滝さんの場合は上がシャンシャンしているように見せるために鈴を使うんです。本当にシャンシャンしちゃうといけないから、鈴を増やしているんです。それでスズしくしてるんです(笑)。

-どこまで信じていいんだかわからなくなってきました(笑)。その時のアンプのトーン位置はフラットですか?
 基本的にはフラットです。スピーカーをこのように調整して、あとはアンプで自分が好きな音に合わせていただいてもOKです。



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