柴草 玲

オリーブの実

2004 " 会話 " NIPPON CROWN CRCP-40089/CD





 日傘くるくる廻して、スカートひるがえしながら、一歩先を踊るように歩く彼女。可愛く、色っぽく、軽快に。季節はそろそろ秋の素敵な休日の1シーン。

 2001年自主制作した時に発表したナンバー「オリーブの実」と「アクアリウム」を含む、新旧取り混ぜた柴草玲さんの2004年ニューアルバム。その自主制作盤は今は入手できないので、僕みたいに遅れてきた玲さんファンにはうれしい限り。


 「オリーブの実」と「アクアリウム」はライブでは常連ナンバー。2曲とも大好きなナンバー。「オリーブの実」は瑞々しさと艶っぽさが同居している不思議で軽快な曲。いつ聴いても気持ちいいメロディ。
 「アクアリウム」、観客の喧騒の中でも水槽の先はいつも現実とは異なる世界。無機質な水槽。静かに回り続ける回遊魚。女の揺れる心と水槽の先はシンクロし始めます。

 1曲目には新作の「靴の詩」。深夜アクセルを踏む黒い靴、森の小径を駆け上がる編み上げ式のサンダル.....、映画のようにそのシーンに静かに巡っていきます。足元だけで織り成す3分のドラマ。 そしてかわいい小品、別れ際の切ないキス「月夜のキス」。ころころ回るピアノもかわいい。「ヒガンバナ」、柴草さんの作品によく登場するダメダメ男。そんなダメ男に翻弄される女。柴草さん視線はそんな2人に冷静で客観的、しかし女に対する男の酷い仕打ちも柴草さんの真摯な歌声と優しいピアノの音色に救われます。
 そしてアルバム名にもなった「会話」。これは1933年2月4日に起きた教育文化運動に対する全面的弾圧のはしりとなった「長野県教員赤化事件」を題材にした曲。柴草さんによれば、柴草さんの会うことのなかった祖父は本事件で、3年と約3ヶ月投獄されたとのこと。その1933年2月4日の祖父と2003年2月4日の柴草さんとの"会話"を綴った曲。屈辱、恨み、怒り...、様々な思いが渦巻く中、祖父の心の奥、気持ちを知りたい柴草さんに対して、その祖父は優しくこう語りかけます。「いいんだ。それよりシューベルトを弾いてくれ。涙ふきなさい」と。
 クリスマスソングの「精霊たちのえくぼ」は柴草さんらしい清々しく透明感溢れていて、いままでにない大作に仕上がっています。
 最後に収録されているのは、柴草さんの自宅のベランダにやってくるというヒヨドリの姿がユーモラスな「ヒヨドリが見ていた」。NHKみんなのうたの「カモのひな」に通ずるほっとする作品です。「ひみつだよ。ひみつだよ。」と鼻歌まじりで歌ってしまいます(笑顔)
 前作のアルバム『うつせみソナタ』は夏のアルバムでしたが、今回の『会話』は秋から冬にかけてぴったりのアルバムです。柴草さんの本領はなんといってもピアノ弾き語り。是非ライブでこの素敵な曲達を聞かせてください。柴草さんのピアノはクラシック畑でも充分通用する程のスゴ腕。これからもシンガーソングライター中心にずっと活動続けてほしいです。
 柴草さんはライブではユーモアたっぷり楽しくてカワイイ方ですが、その一方、人の心の奥に潜む淋しさ、悲しさをしっかり見つめることができ、それを優しく見守る心を持っている方。僕にとって柴草さんは、Laura Nyro の亡き後の僕の心の空白を埋めた人、といっても過言ではありません。
 これまでインディーレーベルや自主制作でアルバム4枚程リリースしてきましたが、今回のアルバムはメジャーからの初アルバムとなります。

01.靴の詩
02.オリーブの実
03.月夜のキス
04.アクアリウム
05.ヒガンバナ
06.会話
07.耳打ち
08.精霊たちのえくぼ
09.ヒヨドリが見てた

(富田英伸)




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