Brian Wilson

Heroes And Villains

2004 "SMiLE" Nonesuch WPCR-11916 / CD





 以前からThe Wondermintsのメンバーとも親しい情報通の友達からその存在を知らされていた、『メイヤー・オブ・サンセット・ストリップ』というドキュメンタリー映画を観てきました。東京国際ファンタスティック映画祭で平日のオールナイト上映というキツい状況でしたが、かなり興味深い内容でしたので紹介したいと思います。


 この映画は60年代から活躍するL.A.音楽界の大物DJであるRodney Bingenheimerという人物の半生を追った伝記映画ですが、まるでロック人名事典を捲るように、彼と関わりを持った英米のポップ/ロック・スターが次から次へと出てくる様子がとにかく圧巻でした。Connie Stevensの追っかけだったという母親に育てられた、いわゆる筋金入りのグルーピーだった彼が、60年代の狂騒の中でポップス・スターと交流をはかる模様が綴られる冒頭では、The Four SeasonsやThe Mamas & The PapasのTV出演時の観客に混じって首を振っているRodneyの映像や、The Beach Boysとスタジオにいる写真、MonkeesのTVショーに出ている場面など、ポップス・フリークにはクラクラしてくるシーンばかり。更にKim Fowley、Nancy Sinatra、Cher、David Bowieの現在のインタヴューに加え、Davy JonesのMonkeesのオーディション場面やPhil Spectorのバースデイ・パーティのシーン(!)といったレア映像まで出てきて、まるで自分がルイス・シャイナーの小説『グリンプス』の主人公にでもなった気分を味わせてくれます。
 その後Rodneyは"English Disco"というクラブのオーナーや、ラジオ局KROQの名物DJとしてロック・セレブや気鋭の若手ミュージシャンから絶大な信頼を受け、現在もL.A.のAndy Warholとも言うべき存在感を保ち続けているわけですが、映画後半は母親との死別や友情(恋愛?)関係の破局といったプライヴェートな問題に焦点が当たり、観賞後は孤独な1人の男の姿がやけに心に残るというちょっと寂しい演出でした。
 本作のプロデューサーの1人はThe WondermintsのマネージャーであるChris Carterであり、劇中ではやはりBrian WilsonやThe Beach Boysの曲が多用されています。その中でも「Heroes And Villains」がかかった時は、映画のカオス的内容とリンクして妙にハマった感がありました。先日リリースされたBrian Wilsonの『SMiLE』はアメリカ音楽の歴史、奥深さを改めて知り得る究極のサンプルでしたが、この映画はそんな『SMiLE』が生まれた背景でもある、世界でも有数な芸能都市L.A.という街の風俗史としても観ることができます。ほぼ同時期に体験したこの2つの作品は強い繋がりでもって深く心に刻み込まれました。日本ではまだ公開が決まっていないとのことなのですが、興味ある方は輸入盤DVDを購入してチェックしてみてはいかがでしょうか?

(高瀬康一)





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