柴草 玲

前山にて

2003 " うつせみソナタ " Rock Chipper Records/CD





裏山へ続く懐かしい夕暮れ小径。聞えるのはひぐらしの音。

 2003年、NHK「みんなのうた」で放送していた「ヒナのうた」。可愛いアニメーションと「1羽2羽3羽4羽かものヒナ♪」というフレーズとシンプルなピアノの旋律が頭から離れずにずっと気になっていた、作詞作曲歌、柴草玲さん。

 機会があって、その柴草玲さんのソロアルバム『うつせみソナタ』を聴いてみました。
"うつせみ"「空蝉」は蝉の抜け殻のこと、この世の虚しさを表現した言葉=現身(うつせみ)。短い季節"夏"を謳った"ソナタ"が8つ収録されていました。
どの曲も心に底に宿っている優しい夏の心象情景が描かれていました。時間が止まったような様々な夏の瞬間を切り取っていて、忙しい日常を忘れさせてくれました。


 「前山にて」はラストに収録されているナンバーで、アルバムのハイライトとなっています。変わらぬ山と向かい合う今の自分、そしてそれから先の自分。揺れる気持ちが夏の景色とシンクロしながら溢れ出していきます。

 "前山"とは、柴草さんの故郷、志賀高原の麓にある実際にある山とのこと。子どもの頃から親しんでいた場所のようです。柴草さんの"前山"は聴く人の心に、それぞれ自分の故郷の山々の風景を写し取って響いています。

 柴草玲さんは1990年代にバンド、チカブーンの一員としてデビュー、その後いろんな方のバックに携わりながら楽曲提供を行ってきました。代表曲として、Coccoに「強く儚い者たち」「樹海の糸」があります。2000年に入ってから本格的にシンガーソングライターそしてソロ活動を始め、今回が『うつせみソナタ』がメジャー初アルバム。偶然、このアルバムに出会えたことをうれしく思っています。
 柴草玲さんの基本的なスタイルはピアノによる弾き語り。奥深いメロディーとそのオリジナリティ。小柄な柴草さんがピアノを前に座った時、その場の空気は一瞬止まり、柴草玲ワールドに染まっていきます。これからもゆっくりでいいですので、素敵なアルバムを僕らに届けてください。

01. 川辺
02. 祭りばやし
03. 煉瓦のかぞえ唄
04. 国立
05. 微粒子
06. 7月5日(皆既月食)
07. 虚蝉
08. 前山にて

(富田英伸)





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