Gilbert O'sullivan

Matrimony

1971 " Himself " MAM SS501 / LP





 先日、Gilbert O'Sullivan のライヴに行って来ました。92年の初来日公演、2000年と過去に2回見ていますが、今回はシンセサイザーとサックスが1人ずつ、バック・ヴォーカルの女性2人というサポート・メンバーを従えて、相変わらずポップでセンシティヴな音楽を聴かせてくれました。最近ではドラマやCMで幾度となく使われ、Carpentersと同じくらいの大衆性を獲得したといってもいいですが、彼の音楽に初めて触れた20年前にはすっかり忘れられた存在でした(唯一、来生たかお氏が熱心にファン振りをアピールしていたぐらい)。Elton John、Billy Joel、Paul Simonといったシンガー・ソングライターのレコードを必死に聴いていた丁度その頃に出会ったO'Sullivanの音楽。すんなりと心の中に入ってきて、いつのまにか人生の宝物の1つになっていました。


 初めて買ったオリジナル・アルバムということで、今でも一番ターンテーブルに乗せることが多いこのデビュー・アルバム、『Himself』というタイトルからも窺える通り、繊細で純粋な人間性の中にも時々俯き加減に世の中を見てるような彼の目線が垣間見られます。「Alone Again(Naturally)」の大ヒット以降、ファッションも音楽性もアメリカナイズされ垢抜けていった彼の映像や写真からは、どこか居心地の悪さを感じ取ってしまいますが、本作にはアイルランド出身のちょっと屈折した青年像がありのままにトレースされているように思います。とにかく当時も今も一番好きな曲は「If I Don't Get You(Back Again)」と「Matrimony」の2曲。前者は"ブルーな時は夜空の星を見上げる"なんてセンチメンタリズム爆発の詞が、高校生のウブな心にバシバシ刺さり捲ったバラード。ほぼ同時期に聴いた佐野元春の「グッバイからはじめよう」のスキャット部分が酷似していることも何か嬉しかったり…。後者は初来日公演や今回のライヴでも披露してくれた、恐らく彼自身お気に入りの曲。結婚当日の慌ただしい新郎、新婦の模様をコミカルに描いたポップ・ソングで、ピアノの弾むリズムが2人の浮かれた気持ちを表していて幸せな気分にさせてくれます。でもどんなに明るい曲を作っても、その奥に不安や翳りを同時に潜ませているのが彼の魅力なんですよね。
 今回は6月(=ジューン・ブライド)ということで「Matrimony」を選びましたが、どのアルバムを聴いても、難易度の高いコード進行やちょっと変なメロディ・ラインを忍ばせるといった、一筋縄ではいかないポップ・センスが感じられます。「Alone Again(Naturally)」だけのベタなヒット歌手と思われがちな昨今の彼ですが、実は高度な音楽性を誇るミュージシャンズ・ミュージシャンの一面も持っていることも強調しておきたいです。(「Alone Again」と言えば抱腹絶倒の日本語カヴァー、九重祐三子の「また一人」が遂にCD化されますね!)

(高瀬康一)





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