Fairground Attraction

Allelujah

2003 "KAWASAKI Live In Japan 02.07.89" BMG FunHouse BVCM-31105 / CD





 今までの音楽人生で、見逃したことを今でも悔やんでいるライヴは2つほどあり、その1つは MFQ の88年の初来日公演だったことは以前ここでも書きましたが、12月の再来日で遂にその後悔も精算されることとなりました。見逃したもう1つのライヴは MFQ の翌年、89年の Fairground Attraction の来日公演なのですが、これも15年振りにその一回きりの来日公演が先日CD化され、一気に2つの夢がほぼ叶ってしまったのはちょっとした驚きでした。
 その『Fairground Attraction KAWASAKI Live In Japan 02.07.89』は、89年7月2日に川崎クラブチッタで行われた来日公演の模様を収録した公式ライヴ・アルバム。当時予備校生だった僕はお金も精神的余裕もなく、大好きだったグループにも関わらず涙を飲んでパスしたのですが、何とその数週間後に解散が決定、来日公演のステージだけではなくグループの存在自体が伝説となってしまったのでした。それ以来、来る日も来る日も唯一残されたアルバム『The First Of A Million Kisses』を聴きながら(恐らく一番聴いたアルバム!)、次の Fairground Attraction を探し求めていたような気がします。ギタリスト兼ソングライターの Mark E.Nevin が次に作ったユニット Sweetmouth も、Eddi Reader のソロもそれなりに素晴らしかったけど、やっぱり Fairground の魅力には叶わない。メロディ、ヴォーカル、サウンド、ジャケットのアート・ワークに至るまで、こんなにも自分の価値観にフィットするグループってもう一生出会えない気がします。


 西へ向かう道路の灯りが連なっている
 百万もの車が家路を急ぐ
 アイスクリーム屋の車はピカピカのベルのマークをしまい込んだ
 冬はもう遠くない

 ライヴ盤でも1曲目に入っている「Allelujah」という曲の出だしはこう始まります。毎年木枯らし1号が吹くちょうど今頃に聴きたくなるのはこの歌詞のせいでしょうか。このあと歌の主人公は、好きな人を毎日見かけるけど恥ずかしくて声をかけられないと告白しているのですが、当時この恋愛の不器用さになんとも心打たれました。実際 Mark E.Nevin という人は女性にフラれてばかりで、メンバーに「ヤツに彼女が出来たらグループは終わりだ」なんて冗談を言われるほどシャイな性格だったようです。内気な男が描く不器用なラヴ・ストーリー…いいですね。ロマンチストと笑えば笑え!です。その後就職して、ガサツな人間や存在を主張しすぎる音楽に押し潰されそうになる度に、ひっぱりだしては Mark が描くこの世界に逃げ込んでいました。どんどんズル賢くて下世話な世の中になっていく昨今、僕の中でこういう「内気で繊細な音楽」がますます価値のあるものになっていくような気がします。

(高瀬康一)




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