Steve Lawrence

Footsteps

1960 ABC-Paramount 45-10,085/Single





 竹内まりやさんは、「悲しきあしおと(Footsteps)」とどのように歩みを重ねてきたのでしょうか。
 両者の出合いについては、ダニー飯田とパラダイスキングによる同曲のカヴァーを紹介した、森勉氏の文章がその背景を物語ってくれています。
 「60年代のテレビ番組『ザ・ヒットパレード』は日本人が洋楽ヒットを歌いながら、カウントダウンしていくものだった。この曲のオリジナルはスティーブ・ローレンスによる60年のヒットだが、まだ洋楽に精通していない子供たちはこういったヴァージョンで初めてのバリー・マンを知らず知らずに体験していた。」(「レコード・コレクターズ」2000年10月号「バリー・マン名曲30選」より)


 遠い日に、まりやさんもそうした子供たちの1人として、日本語交じりの同カヴァーと出合い、音楽好きな兄姉にかこまれて、自然と空で歌えるようになっていったのでしょう。それからたくさんの音楽を聴いて(恋も重ねて)いくうちに、離れていった恋人への未練をつづった歌詞とそれとは裏腹な心弾むようなメロディーとのその取り合わせの妙に、ふと立ち止まって聴き入ることもあったかもしれません。そして、作曲者 Barry Mann を敬愛する山下達郎氏との出逢いを通じて、同曲への愛着を一層深めてきたものと想われます。
 その山下氏は、まりやさんと出逢う2年前に、1stアルバム『Circus Town』の制作に際して、アレンジャーの Charlie Calello から多くのことを学んでいますが、その Calello の師匠筋にあたるのが、他ならぬ「Footsteps」のオリジナル・ヴァージョンのアレンジャー、Don Costa でした。したがって、今回のまりやさんのカヴァーは、Rock & Rollの系譜の視点に立てば、43年越しの師匠と孫弟子とのアレンジ対決という側面を持ち合わせていることにもなるのです。

 他方、Barry Mann は、オリジナル・アーティスト Steve Lawrence と一方ならぬ縁がありました。「Footsteps」に続いて、「Come Back Silly Girl」、「Girls, Girls, Girls」、「Hansel And Gretel (Hold Back The Dyke)」、「Don’t Be Afraid, Little Darlin’」などの楽曲を Lawrence に提供したばかりか、彼の細君 Eydie Gorme に、彼女の最大のヒット曲となる「Blame It On The Bossa Nova(恋はボサ・ノバ)」を提供してもいました。そういえば、このたびまりやさんと共演した大滝詠一氏には、同曲の「パロディ」ソング、「恋はメレンゲ(Blame It On The Merengues)」という作品もありました。
 「悲しきあしおと」のたどる道は、ひとりまりやさんに重なるにとどまらず、時空をこえてさまざまに折り重なりつながっていくもののようです。

(T.M)


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