Cindy Bullens

It's Raining On Prom Night

1978 “Grease” RSO 4002/ LP





「何年留年してんだよっっ?!」
 いつだったか、とある映画館の片隅で、私はスクリーンの John Travolta と Olivia Newton-John に心の中でそうツッコんでいました。1950年代のアメリカの高校生を演じる2人の映画撮影当時の推定実年齢は、Travolta 23歳、Olivia 29歳。「いくらなんでも17、8なわけないだろが!特にオリヴィア!!」と毒づきながらも、私はやがてそんな細かいことは忘れ、その映画、『Grease』に魅せられていったのでした、メデタシ、メデタシ・・・
 ・・・と、ここでお話を終わらせてはいけませんでした。映画『Grease』は、1971年にシカゴで初演、翌年2月から本場ブロードウェイでロング・ラン上演されるようになった同名ミュージカルを原作としています(今秋来日公演が予定されています)。映画製作にあたって、主役には、前年『Saturday Night Fever』で一躍スターダムにのしあがった Travolta と、70年代中ごろから着実にヒットを飛ばしてきた歌姫 Olivia が抜擢され、2人の歌った、映画用に書き下ろされた「You're The One That I Want」は、映画の大ヒットとあいまって、Frankie Valli の歌った同じく書き下ろしのメイン・タイトル曲とともに、全米シングル・チャートNo.1を獲得、さらにはOSTアルバムもアルバム・チャート12週連続No.1という金字塔を打ち立てたのでした。


 もちろん、そうした偉業は、Jim Jacobs と Warren Casey の筆による、往年のヒット・ナンバーを巧みに換骨奪胎したオリジナル劇中歌に多くを負っていました。「Summer Nights」(シングル・チャート5位)では、「You've Lost That Lovin' Feelin'」のブリッジでの印象的なフレーズで全編押し通し、「We Go Together」では、「Who Put The Bomp」をはじめとするノヴェルティ・ソングの「お囃子」をこれでもかこれでもかとてんこ盛りにするなど、オイシイとこどりに徹したその曲作りは、アメリカ人の音の記憶を激しく揺さぶったに違いありません。わけても傑作なのは、Bob Crewe の『Street Talk』でヴォーカルをつとめた Cindy Bullens の歌う、「Raining In My Heart」のメロディーをもじった「It's Raining On Prom Night」です。オールディーズならではの気恥ずかしいまでに思い入れたっぷりのヴァースやコーラス・アレンジで歌われる内容といえば、prom(高校の体育館などで催される卒業記念ダンス・パーティー)当日の暴風雨で、タフタのドレスはグッチャグチャ、コサージュもドブにボッチャーン、おまけに風邪ひいて水っ洟ツーッで、O dear God、乙女の夢はブチ壊しよ!といった、アメリカ人の多くが抱いているであろう prom への甘酸っぱい想い出をコチョコチョくすぐる体のもので、これほどlovelyでくだらないrain songを私は他に知りません。
 で、映画の方はといえば、そんなこんなですったもんだあっても、最後はお約束どおりのハッピー・エンディング。移動遊園地がいつのまにやら設営された運動場で、50sファッションでキめたキャスト全員がスクリーンせましと歌いまくり踊りまくるラスト・シーンを目の当たりにして、「アー、こんなに愉しそうなんだもん、5年でも10年でも好きで留年しちゃうヤツいるかもナー」などと、素直な私は実にノー天気な納得をしたのでした、ホントにメデタシ、メデタシ。

(T.M)





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