The Partridge Family

I Really Want To Know You

1970 “Album” Bell 6050/ LP





 1960年代から1970年代前半にかけて、アメリカン・ポップスの世界では、芝居の世界でいうところの座付作者に擬えられる作家たちが活躍していました。Dimension Records における Carole King と Gerry Goffin、The Monkees における Tommy Boyce と Bobby Hart、The Partridge Family における Tony Romeo と Wes Farrell の3組がその代表例で、それらの取り合わせにはいくつかの共通点が認められます。いずれも Aldon/Screen Gems-Columbia という音楽出版社肝煎りのプロジェクトで、短期間とはいえめざましい商業的成功を収め、また、どの作家も同社専属だった点などですが、もう1つ見逃せないのが、彼らのサポートを、やはり同社専属の Barry MannとCynthia Weil の作品が適確に果たしていたという点です。


 Dimensionの2枚のアルバム『L-L-L-L-Loco-Motion』と『Dimension Dolls Volume 1』に収められた、彼らの手に成る「Uptown」と「On Broadway」 (オリジナルはともにThe Crystals)は、社会を諷刺したポップスの先駆と後世評される楽曲だけあって、それらのアルバムに凡百のガール・グループ・アルバムと一線を画する奥行きを与えています。また、The Monkees の3rdアルバム『Headquarters』に収録された「Shades Of Gray」は、複数のカヴァーの存在や、シングル・カットされなかったにもかかわらず sheet music(楽譜)が出版されていた事例などから推して、一定の評価を得ていたことがうかがわれます。残る The Partridge Family にも MannとWeil の作品はいくつも取り上げられていますが、わけても1stアルバム『Album』にひっそりと収められた「I Really Want To Know You」は、その途方もなく美しい旋律と普遍的な詩想から、ポップス・ファン必聴の名作と呼べましょう。
 「あなたの鏡のような瞳の奥、言葉とは裏腹なその心のうち、そのためいきの背後には何があるのでしょう。/その胸の苦しみ痛みに誰も耳を貸してくれないのなら、思いのたけをどうぞ打ち明けてください。/私は心からあなたのことを知りたいのです…/あなたが独り抱いてきた夢をともにしませんか、その胸の扉を一つひとつ開いて……」
 さまざまな経緯で心を閉ざし暮らしてきた「あなた」に切々と語りかけるこの作品は、単なるlove song というより、affection song の名こそふさわしいように思われます。The Partridge Family のヴァージョンは、Hal Blaine をはじめとする名立たるスタジオ・ミュージシャンが脇をかため、Jack Jones によるオリジナルや、同じファミリー・グループの The Cowsills、Mike Adkins らによる他のカヴァーを凌駕する出来栄えとなっています。特筆すべきは間奏で聞かれるコーラスの見事さで、その素晴らしさは、Mann と Weil の数ある作品の中でも、The Vogues の「It's Getting Better」や New York City Gay Men's Chorus の「Love Lives On」などのそれに比肩し、その天上の歌声にいつまでも身をゆだねていたくなるほどです。
 それにつけても、Barry Mann と Cynthia Weil は、卓越した能力を備えながら、上述した3組のような座付作者を任されることがついにありませんでした。しかし、そうした不遇ゆえに、2人は、歌の続きを書き継ぐかのように、他言できない想いや見果てぬ夢を互いに分かちあい、今日にいたる40余年の永きにわたり、夫婦相和して創作にいそしんでこられたのかもしれません。

(T.M)





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