Ella Fitzgerald

April In Paris

2000/2002 ' At Newport ' Verve/Universal Music/UCCV-9097/CD





 「真夏の夜のジャズ」といえば、音楽ドキュメンタリー映画の傑作として、音楽ファン、映画ファンを問わず、どなたも一度はご覧になったことがある作品ではないでしょうか。写真家のバート・スターンが撮影・監督した1958年のニューポート・ジャズ・フェスティバルを記録した映画です(今の野外ライブ・イベントの原型がこのジャズ・フェスティバルにあるのではないかと思いますが)。
 ところで、その前年の1957年の同フェスティバルの4日間は、ジャズ・ヴォーカルのファンはタイム・マシーンでタイム・スリップしたくなってしまうのではないでしょうか。ラインアップを見ると、7月4日夜、Ella Fitzgerald(以下、すべてピアノ・トリオをバックに)、同5日夜、Carmen Mcrae、同6日夜、Billie Holiday、そして7日夜はSarah Vaughn(このライブを収めた「Linger Awhile−−Live At Newport And More」は既にMusic Book No.63で紹介済)と、まさに黒人女性ジャズ・ヴォーカリストの「四天王」の揃踏みといった趣きがあります。このアルバムは、Ella、Billie、Carmen の三者三様のヴォーカルが堪能できる好盤だと思います(リリースされた当時は、Ella と Billie のライブ収録だけであったが、2000年のリイシューにあたって Carmen のライブも収録された)。


 その中でも「This Can't Be Love」からはじまる Ella のステージは、ライブならではの臨場感や彼女のヴォーカルの魅力を感じさせます。「April In Paris」は、サッチモとの名デュオアルバム「Ella & Louis」でも歌われている Vernon Duke-E.Y.Harburg の作品で、多くのジャズメンが取り上げているスタンダード・ナンバーの1曲です。Ella のスウィング感のあるややアップテンポなヴォーカル、そして後半のピアノ・トリオの弾んだリズムにのったスキャット・ヴォーカルは彼女の歌唱の独壇場といった趣きすら感じさせます。
 当時、40歳(女性にお歳をいうのは失礼)の Ella の歌唱には円熟味を増す時期の声の伸びや艶があるのではないでしょうか。「Body And Soul」(同盤に収録の Carmen も同じ歌を歌っていますが、まだ硬さが残り、Ella の歌に軍配が上がります)、「I've Got A Crush On You」などのバラード、アンコールでの「I Can't Give You Anything But Love」での、ライブ当日が誕生日だったというサッチモの物真似を含む陽気な歌まで、Ella の歌っている表情までもが見えるようなライブ盤で、Ella のもうひとつのライブ名盤『Ella In Berlin--Mack The Knife』とともに私の愛聴盤です。
 なお、以上を書くにあたっては、酒井眞知江著「ニューポート・ジャズ・フェスティバルはこうして始まった」(講談社)の資料を参照しました。ここに謝意を表します。

(伊東潔)




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