斉藤哲夫

君の街に春がくる〜まだ春遠い〜ウーウー

1974 " グット・タイム・ミュージック " CBS SONY SOLL-70 /LP





 斉藤哲夫の楽曲に最初に接したのは確か小学6年の時でした。初期オフ・コースのライヴ盤に収録されていた「悩み多き者よ」が大好きだったのです。オリジナルのアクの強さを感じさせないオフ・コース版は、そのメロディの良さをくっきりと浮かび上がらせていて、哲学的な歌詞など理解できないままいつも歌っていました。オリジナルを聴いたのはそれから10年くらい経った後ですが、そのフォーク然とした曲調にびっくりしたのを覚えています。
 しかしこの人ほど、音楽性が正当に評価されていない人というのも珍しいのではないでしょうか。方や「悩み多き者よ」のメッセージ・フォークのイメージ、方や「いまのキミはピカピカに光って」のコマーシャルなイメージ。一体どちらが本物の斉藤哲夫か?という答えの1つが今回紹介するこのアルバムだと言えるでしょう。


 The Beatles が好きで始めた音楽、しかし時代はフォークというフォーマットを彼に選択させます。URCからのデビュー・シングル「悩み多き者よ」が話題になり、その哲学的でシニカルな視点ばかりが取り上げられることとなります。しかし先天的なポップ・センスはそんな枠組みに収まるわけはなく、CBSソニーに移籍してからはメロディ・メイカーぶりが爆発、才能ある友人ミュージシャン達の助けも借りて素晴らしい作品を発表していきます。
 この『グッド・タイム・ミュージック』はそんな彼の最高傑作との声も高い3枚目のアルバムです。サウンド的には従来のフォークの叙情性と、白井良明のサポートにより色濃くなったブリティッシュ感覚、更にはカントリーやロックンロールといったルーツ志向が程良くブレンドされた、当時あまり無かったサウンドのように思います。何より素晴らしいのは曲の良さで、特にB面は『Abbey Road』を意識したメドレー形式になっており、美しいメロディを整理せず惜しみなくぶちまけるような Paul McCartney 的趣向がモロに出ています。そこに僕は、例えば同時期のチューリップ(同じ年にリリースされた『Take Off』とか)にも通じる親しみやすさを感じます。
 前作『バイバイグッドバイサラバイ』にも「もう春です(古いものはすてましょう)」という名曲がありましたが、この人は春という季節にすごい執着があるようで、本作にも「春」という言葉がつくタイトルが3曲もあります。瑞々しいサウンドやちょっと切ないヴォーカルとも相まって、春の日差しのようなほんわか暖かい印象がアルバム全体を支配しています。タイトル曲「グッド・タイム・ミュージック」の完成度も捨てがたいのですが、春の予感が漂う今頃聴くにはB面のそんな「春」メドレーがお薦めです。ちなみにこのアルバムには達郎さんがコーラスで参加しているのも特筆すべき点ですね。
 昨年のライヴではヨシンバという世代を越えた最高の理解者を得て、相変わらず高い音楽性を見せてくれた斉藤氏。感動のライヴを見終わった後、彼の「今」を応援していこうと誓ったことも付け加えておきます。

(高瀬康一)





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