Wings

Maybe I'm Amazed

1976 Toshiba-EMI EPR-20200 / Single





 中学時代の思い出です。ぼくは電車のなかで Beatles の本を熱心に読んでいたのだと思います。知らないおじさんが話しかけてきました。「4人の中で誰が一番好きかな?」ぼくはこう答えました「4人そろってなきゃだめです」。そのおじさんはちょっと困った顔をして、鞄の中から4人がそろっている写真を探し出し、ぼくにくれました。1967年の写真でした。
今思うと、よく言い切ったと感心するのですが、その一方こどもには誰が自分にとって大事な人物かはわからなかったようです。しかしその後、John は殺されてしまい、George は隠れてしまい、色々な時間と経験の後に、Paul McCartney はぼくの唯一無二のアイドルになりました。


 そんな私ですが、今回の来日公演はさほど期待が大きかったわけではありません。再婚したこと、アメリカ人になっちゃったのかなと思ったこと、少しずつ私の意識に溝ができていたように思います。チケットも完売しなかったしなぁ。しかし…、油断していましたよ。声がすごく出ている。バンドがきっちり合っている。会場にいた人は1曲目の「Hello Goodbye」で完全にコンサートの成功を確信したと思います。
 このコンサートは初日本公演がかなった'89-'90ツアー、そのバンドが成熟を見せた'93年のツアーに続く大規模なツアーになります。これら3時期の来日公演を比べてみると、今回は36曲を演奏、うち Beatles 23曲と、どちらも前2回より多い数字。3回とも演奏された曲は11曲、一方今まで一度もツアーメニューに現れなかった曲は新曲の3曲にBeatles の5曲を含む6曲ということになります。Paulのステージに対する考え方、何が軸なのか、ということが見えてきます。3回目にして、最高のステージであったと評価しています。
 今回のツアーの特徴は、faithful であるということにつきます。お客に対する誠実さ、それに自分の曲に対する忠実さ。どの曲もサウンドの再現度が高かったのですが、特にこの曲はわが耳を疑いました。「Maybe I'm Amazed」。全くもって'77年版 Wings のサウンドがそこにありました。この曲は'70年、Beatles 解散と前後してリリースされた彼のファースト・アルバムで発表された曲ですが、実際に書かれたのは'68年とのことで Paul 最高の年の贈りものの一つです。「Let it be」と「Long and Winding Road」とこの「Maybe I'm Amazed」は同じ叙情性とナイーブさを持つ同時期に同所から生まれた3つ子で、かつ Paul の最高傑作3作であるというのが私の自説なのですが、前2者が Beatles の代表曲になったのに対して、この曲は積み残されます。
 ファーストの Paul の一人多重録音は非常に瑞々しい好パフォーマンスながら、このドラムが Ringo だったら…と。持ち越されたサウンドの完成は'76年の Wings Over America ツアーになります。大成功した『U.S.A.ライヴ!!』で、この曲は Wings の曲となり、シングルカットまでされるに至ります(ただ「ハートのささやき」というのはご愛嬌だなぁ…)。2002年版「Maybe I'm Amazed」は、体の隅々まで Beatles とWings が入った最高のバンドのサポートを得て、忘れられないパフォーマンスとなりました。

(たかはしかつみ)





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