Ann Lewis

Karen

1984 "Cheek III" Victor SJX-30250 / LP





 Carpentersの魅力に迫るマンスリー企画ですが、最後にちょっと個人的に思い入れのある番外編のアルバムを紹介させて下さい。
 アン・ルイスのチーク・シリーズというのをご存知の方はどのくらいいるのでしょうか。アンさんには「ラ・セゾン」や「LUV-YA」といった歌謡ロック路線を打ち出す前に60'sポップス時期というのがありまして、まりやさんの作品「Linda」をシングルで発表した80年に、全編オールディーズのカヴァー・アルバム『Cheek』をリリースしています。その「Linda」や「One Sided Love」といったまりやさん作品や、Spector 作品「You Baby」、The Shangri-Las「Leader Of The Pack」など往年の60'sポップスを、鈴木茂、松任谷正隆、後藤次利、林立夫(コーラスにはビジーフォーなんて名前も…)といった鉄壁の布陣で手堅くカヴァーしています。
 82年には第2弾『CheekII』が出され、こちらでは選曲の幅も広がり、このサイトの代表である富田さんが以前 Music Book で取り上げた Kenny Nolan の大傑作『I Like Dreamin'』に収録の「Love's Grown Deep」なんていう甘い名曲も演っています。


 しかし特筆すべきは大滝詠一の「夢で逢えたら」と「Dream Boy」の2曲でしょう。もともと彼女のために書かれたという「夢で逢えたら」と、全く同じコード進行で書かれた「Dream Boy」、この2曲が入っているというだけでナイアガラー必聴の作品となっています。
 さてやっと本題に辿り着きましたが、84年に出された第3弾がこの『CheekIII』です。今までの60'sポップス路線がなぜ突然 Carpenters のトリビュートになったのかは、恐らく前年に Karen が亡くなったからだと思われます。「Goodbye To Love」、「I Won't Last A Day Without You」、「We've Only Just Begun」といった王道曲をアンさんは Karen になりきって歌っていますが、「Superstar」の次に歌われる彼女自身が作詞・作曲したオリジナル「Karen」という曲で、"私にとってのスーパースターはあなただった"と歌われる個所を聴くと、同じ歌い手としての Karen への愛情が切ないほど伝わります。
 ところでこのアルバムには1曲だけ Carpenters とは関係ないと思われる「Together We're Falling Apart」という曲が入っています。メロディがとても美しく、当時から Carpenters の曲だと勘違いしてずっと探していたのですが、最近になってイギリスのシンガー・ソングライター Gary Benson が83年に出したアルバム『Rushing In To Love』の中の1曲だということが判明しました。
 Gary Bensonのヴァージョンは80'S風の堅いアレンジが今イチですが、アンのヴァージョンは本当に Carpenters の未発表曲ではないかと思わせるほどそれらしいアレンジで、当時から大好きでした。
 しかしCarpentersのトリビュートであるはずのこのアルバムに、なぜ1曲だけ無関係の曲が入っているのかという謎は残ったままなのです。

(高瀬康一)





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