Carpenters

Because We Are In Love (The Wedding Song)

1981 " Made In America " A&M SP3723 / LP





 1970年代末期から1980年代初頭に掛けてCarpentersはヒットチャートから完全に姿を消していました。ちょうどその頃に洋楽に狂い始めた僕にとっては、彼らは Beatles や Simon & Garfunkel などの既に解散したグループのような、やや伝説的な存在となりつつありました。しかし Beatles や Simon & Garfunkel と同じように、Carpenters の全盛期の名曲はその当時でも結構身近でした。子供の頃からFMより流れてきた「遥かなる影」「雨の日と月曜日は」「愛は夢の中に」などは完全に僕の脳髄に染み込んでしまっていたし、高校時代に参加した音楽サークルでは Carpenters がレパートリーの女の子グループがあって、彼女達が歌う「スーパースター」や「イエスタデイ・ワンス・モア」などを毎日放課後で耳にする環境に居ました。そしてディスコ/フュージョン/ニューウェーブなどが一世を風靡していた当時においても、洗練されて飽きの来ない王道ポップスの魅力は、新しい音楽を求めていた僕の耳で雄弁に鳴り響いていました。


 そんな80年代初頭に、約4年ぶりに発売されたオリジナルアルバムが『Made In America』です。僕にとっては John Lennon/Yoko Ono 『Double Fantasy』や Gilbert O'sullivan『Off Centre』と同じく「初めてリアルタイムで聞けたポップスの巨人の新作」でした。先行シングルの「Touch Me When We're Dancing」は4年ぶりのTop 40に輝き、表舞台に再登場した観がありました。全体的に Back to Basics を感じさせるアルバムで、過去の名曲群を彷彿させる部分があるものの、芳醇かつ溌剌とした快作になっています。
 このアルバムの最後を飾る「Because We Are In Love」は兄 Richard と John Bettis の共作で、前年の妹の結婚式のために書き下ろされた曲だそうです。達郎氏は Sunday Song Book にて、山口百恵「秋桜」と同じく結婚前の娘の気持ちを歌った歌と紹介されてました。歓びに溢れる Karen の名唱と Peter Knight によるゴージャスなオーケストレーションがあまりにも素晴らしく、ここまで華麗かつ高貴なウェディング・ソングもそう見当たらないのではないかという気さえします。このアルバムが作られた年の夏に、日本テレビの24時間テレビの衛星生中継に Carpenters は出演していました。曲を歌った後に Karen が小林克也氏と楽しそうに踊っていた姿が忘れられません。Karen が亡くなったのはその1年半後。高校のサークル仲間とみんなでうな垂れたことを思い出します。結果的に遺作となった『Made In America』には Karen を苦しめた心の影が全く垣間見えず、「Because We Are In Love」の圧倒的な光の前に掻き消されているようです。そのことがこのアルバムをとても美しく、そしてとても哀しく感じさせるのでしょうか。

(醍醐英二郎)





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