久保田麻琴と夕焼け楽団

初夏の香り

1975 "ハワイ・チャンプルー" SHOW BOAT 3A-2012/LP





 以前、自分が好きな邦楽のアルバムを挙げてみると、 1975年に制作されたアルバムがとても多いことに気付きました。小坂忠『ほうろう』、鈴木茂『BAND WAGON』、シュガー・ベイブ『SONGS』、大滝詠一『ナイアガラ・ムーン』などの名盤もたくさんあります。恐らく75年という年は、それまでのフォークかロックかというような2次元の時代に別れを告げ、よりカラフルで成熟した音楽に向けて試行錯誤を続けたミュージシャン達の、試作品第1号が出揃った年だったんではないかと思います。
 日本の Ry Cooder、久保田麻琴が夕焼け楽団を率いてショウボートから出した2作目『ハワイ・チャンプルー』もそんな75年に制作されました。その中から今の時期にぴったりな「初夏の香り」という曲を紹介します。


 同じ "75年組"の愛奴やセンチメンタル・シティ・ロマンスのデビュー・アルバム収録の「初夏の頃」や「暖時」と共に、個人的にこの時期聴きたい筆頭ソングです。駒沢裕城のペダル・スティールと国府輝幸のピアノ、そしてリラックスした久保田麻琴の歌声が、真夏ではなく夏一歩手前、梅雨が明けるか明けないかの甘く気だるい空気感を上手く表現しています。以前この circustown.net の編集長、脇元さんが書かれた大滝詠一「Water Color」についての文章で、"日本人でなくては書けない、梅雨というものが持っている独特の倦怠感" という一節がありましたが、久保田麻琴作曲のこの曲にも(演奏はモロ洋風のそれにも関わらず)同じ匂いを感じます。この曲を何回も聴きながら、僕は楽しいことが一杯ある夏本番よりも、実は夏一歩手前のこの "特別な匂い" が好きだったのかも・・・と思ったりもしました。
 日本の初夏なんて感想を述べた後でナンですが、他の曲はといえばこれでもかというくらい無国籍で見事なゴッタ煮ぶり。喜納昌吉の作品のカヴァー「ハイサイおじさん」では真夏の沖縄へ飛び、真赤な夕焼け時には「バイ・バイ・ベイビー」、月夜の浜辺では「ムーンライト・フラ」で。「国境の南」で知り合った乙女と「サンフランシスコ・ベイ・ブルース」を歌って最後は「上海帰り」。まるで一夏で世界中を旅してる珠玉の幸せ。この幸せ感はハワイ録音のせいでもあるのでしょうが、久保田麻琴の生涯旅人のロマンティシズムがそうさせているような気もします。同じ旅人である細野晴臣がプロデューサー、ドラマーとして参加していることも大きいかも。
 「バイ・バイ・ベイビー」のシングルB面としてリリースされた「初夏の香り」は、鈴木茂とハックルバックを中心としたバッキングで全くの別ヴァージョンらしいです。聴いてみたい!

(高瀬康一)





Copyright (c) circustown.net