Singers Unlimited

Both Sides Now

1972 " A Capella " BASF/MPS MB 20903/LP





 光輝く緑の木々の間を透明な4つの風が通り抜けていきます。
 曲は1967年の Judy Collins によるヒット曲「青春の光と影」。曲を書いたのは Joni Mitchell。4人の天才歌い手達は、その素晴らしい歌を大空に解き放つように自由自在にアレンジ。
 Singers Unlimited を初めて聴いたのは、中学1、2年の頃。たまたま夕食後につけたFMラジオから彼らの声が飛び込んできました。実をいうと「声」だけで成り立っている音楽を聴いたのは初めて。幾重にも織り込まれた「声」と「声」。僕はそのままラジオの前に固まってしまいました。初めて聴いた曲のこともよく覚えています。その曲は「Clair」、まだその頃は Gibert O'Sullivan のナンバーとは知りませんでした。次の日にはレコード店に行って Singers Unlimited のこのナンバーが収録されたレコード、『A Capella2』を買いました。「アカペラ」(無伴奏コーラス)なる音楽形態を知ったのもその頃です。

 Singers Unlimited は男性3人、女性1名からなるグループ。1950年代から活躍していたボーカルグループ、The Hi-Lo's の Gene Puerling が中心となって、同じ The Hi-Lo's のメンバーであった Don Shelton 、The J's with Jamie というグループに所属していた Len Dresslar 、そしてラジオやテレビのCM等でボーカルやナレーションの仕事をしていた 紅一点、Bonnie Herman で1967年頃に結成されました。元々はテレビやラジオのコマーシャルに使用される「ジングル」を作成するために結成したとのこと。1960年代後半から1970年代にかけて飛躍的に録音技術が発達したこともあって、声を幾重にも重ねて録音(ダビング)するという手法をとり、スタジオワークを主体として活動を続けてきました。
 Gene Puerling のアレンジによる緻密なコーラス・ワークはこのアルバムを含め全て ドイツの MPS Studioで行われ、MPS Studioのレコーディング・プロデューサー、 Hans Georg Brunner-Schwer の厳しい音質管理の下で行われました。アカペラ以外のアルバムに関しても演奏部分はアメリカで録音し、コーラス部分は一貫してドイツに行って録音を続けました。
 1982年までに4枚のアカペラ・アルバムを含む、15枚のアルバムを出しましたが、Singers Unlimited 全作品集(アルバム『Christmas』は除く)、『Magic Voices』(CD7枚組ボックス)がリリースされ、彼らの声はアナログ盤のノイズから永遠に解放されました。これは僕の宝物。
 僕はあの日、「Clair」を聴いた瞬間から、Bonnie Herman の声に恋しています。Bonnie Herman は70年代以降の女性シンガーでは一番好きなシンガーです。

(富田英伸)




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