大滝詠一

恋するカレン

1981/2001 " A LONG VACATION 20th Anniversary Edition "
Sony/Niagara SRCL-5000/CD





 3.21 新宿ロフト・プラスワンで、発売20周年にリマスター再発された『A LONG VACATION』を聴きました。ステージに鎮座した「大滝さんのご自宅再現」の機器を囲んで 20周年記念のレコード・コンサート。テレビとは無縁、コンサートも僅かであったこのアルバムを考えると、理想的なお祝いであったと思います。
 ぼくは極端にオーディオに疎くって、スチューダ?トーレンス??と壇上の機材名は未知のガイコクゴ。なにせいまだに70年代に親が買ってくれたステレオの残骸を使っている人間です。聴けりゃいいの世界。ちょっとお金があると、どんどんソフトを買っちゃうタイプです。思えば『B-each Time L-ong』がCDで出た時なんかも、買ったはいいけどハードがない。ジャケットだけ見て気持ち良くなってました。


 そんなぼくにもこの日届られた音は驚異的。音の良さってすごい。−−−音って別にそんなに良くなくてもいいんですよ。ぼろラジカセだって、心のこもった音楽は必ず届いてくる。だけど音の刺激だけの音楽にはだまされないぞ。電車でヘッドホンから漏れる単調なビートを聞かされていると、化学調味料たっぷりの料理みたい。勿論たまにはカップラーメンも食べたくなるけど、飽ないの、それ?−−−マスタリングの良さって、例えると給仕の素早さでしょうか。
 今まで聞いてたレコード、CDはちょっと冷めてた? この日のロンバケはアツアツの調理したて。もっともロンバケは素材を吟味してじっくり調理してあるので、寝ても冷めても伸びても美味しく食べられますけど。アナログのマスク感がまた隠し味になったりしてね。手料理ですし。
 ぼくには昨年末、もう一つの音との出合いがありました。蓄音機を聞かせてもらったんです。予期せぬ事にSP盤が奏でる音は、デカく、張りがあり、とにかく美しい。思いがけずその時聞いた Paul Anka に心打たれました。あの「音」がなければ出会わなかった感動です。音は全てではありませんが、いい音がなければ出会えない世界がある。蓄音機の友人も、新しいロンバケを作った大滝さんも、それを陰で支えたダイナミックオーディオの中村店長も、心からいい音楽を求めて、自力でみつけて、みんなにプレゼントしてくれたと思います。これが2001年の新作です。
 ロフト・プラスワンの試聴会は、満員列車状態。ぼくは一番後ろの「壁で」聴いていました。音圧に身を委ねること30分。この曲になるころ、天井につかまって椅子の上に立ち上がってみました。すると200人の頭の上にはまた別の音の空間があったんです。すぐ後ろはビールのカウンター、目線で注文した生ビールを一杯飲み干し、ぼくは「恋するカレン」を一緒に口ずさみました。小さな声でですよ。すると音の全てが体に響きわたってきました。大滝さんの声がしみ込んできました。3.21 のロンバケはあの場所限りかもしれないけれど、体がずっと覚えていてくれると思います。

(たかはしかつみ)





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