John Lennon / Yoko Ono

Woman

1980/2000 " Double Fantasy " Toshiba EMI TOCP65528/CD





 ここで Beatles を語るのはいささか憚られる気持ちがあり、本年のSSBでは珍しく「She Loves You」、「A Hard Day's Night」と2曲もかけていただきましたが、それが Peter Sellers の珍品カバーということで、なおさら混迷の感を強くする次第です。しかし別な放送で、達郎さんが「音楽家として影響を受けすぎないがために彼らの音楽と距離を置いている」と語るのを聞き、彼らが「リスナー」に与えた影響という観点から、ここは世紀末、世の中の風潮に流されて Beatles を回顧をしてみたいと思います。
 私がレコード鑑賞と収集という意味で最も影響を受けたアーティストは Beatles です。そういう人は多いのではないかと思います。レコード鑑賞という意味で彼らが偉大だったのは、全ての作品の完成度が高く、作品数も適度にあるため、集めたくなり、集めれば確実に充実感が得られるという点だと思います。同時に全てのカタログが常に我が国で容易に入手できたというレコード会社のサポートにも恵まれていました。これは非常に幸運なことで、Beach Boys の例を持ち出すまでもなく、30年以上にわたって「継続的にかつオリジナルのままで」アルバムが入手できたのは希有なことだと言わねばなりません。そしてその一見完璧なレコードの供給体制の裏で、実はアメリカ盤だけとか、シングルだけとかの微妙なミックス違いがポロポロあるという恐怖の事実も存在するのですが...


 次に Beatles の音楽的な面白さですが、私は「似た曲が少ない」ことがポイントだと感じています。「Paperback Writer」や「In My Life」のような曲をもう1曲聞きたいと思っても、彼らはひらりと身をかわし、そこにはいません。そんなもどかしさからか、ぼくらは「微妙なミックス違い」でもいいと、ほとんど同じアルバムを何枚も買ってしまったのでしょうか。もう一つ、Beatles の「カバー」というのも重要な意味を持ちます。「Twist And Shout」をはじめ、彼らは幅広いジャンルのカバーをしています。しかし彼らのカバーに独自の魅力がありすぎるせいか、リスナーの興味はオリジナル作家へは向かわず、 Beatles 自身に向いてしまう傾向にあると思います。John が Chuck Berry にあれだけこだわったり、Paul がいまだに Buddy Holly をサポートしつづけているのとは裏腹に、Beatles がオリジナル曲偏重主義を世の中に広めた印象があるのは皮肉なことです。
 そんなこんなの状況で「Beatles しか聞かないっ」という人は、結構な数おりました。かくいう私も中学生時代、Beatles ばかり聞いていたのは70年代末の思い出です。しかし私には「ベストヒットUSA」が「Poper's MTV」が、FEN (俗に英語の勉強)があり、そして「サウンドストリート」と「ゴーゴーナイアガラ(TBSね)」がありました。現在は、莫大な音源と情報が安定して供給される時代になりました。21世紀には古今東西の音楽が、さらに広く豊かに語り継がれることでしょう。Beatles 主義な音楽鑑賞は20世紀な現象でした。これからも、もっともっと知らない良い曲を聞きましょう。Beatles も聞くけどね。
 この曲「Woman」はちょうど20年前、1980年12月8日に没した John Lennon の死後にシングルカットされ、翌春先まで大ヒットを記録しました。ヨーコさんを含む全ての女性への尊敬を歌ったこの美しい曲を、当時私は半年くらい毎日くりかえし聞いていました。John の「率直さ」がこの曲の命です。今年はミレニアムだの世紀末だのと Beatles 関連の商品がさんざん出ましたが、振り返って聞くのにふさわしい1曲です。

(たかはしかつみ)





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