Pico

赤い砂漠へ行かないか

1972-2000 " abc / Pico first "
Vertigo FX-8605/LP KittyMME UMCK-3501/CD





 しなやかなストリングス。切れのあるホーン。躍動感溢れる優しいメロディー。28年間、閉じ込められていた「ポップス」が今この時代、はじけ飛びました。

 現在も作曲家、アレンジャーとして活躍されている樋口康雄(Pico)さんが1972年に発表したファースト・アルバム『abc / Pico First』がこの度CD化されました。
 僕が樋口康雄さんの名前を意識したのは、中学の頃見ていた、NHK少年ドラマ・シリーズ「つぶやき岩の秘密」というミステリー・ドラマでした。その主題歌は石川セリさんが歌った「遠い海の記憶」という郷愁誘う切ない曲。作・編曲を担当していたのが樋口康雄さんでした。その曲がとても印象に残り、それから樋口さんの作曲・編曲クレジットのある作品を探すようになりました。


 樋口康雄さんは70年代初頭にNHKテレビの「ステージ101」等で活躍していたグループ、シング・アウトの中心メンバーで、同番組の音楽監督を宮川泰さんや東海林修さんらと担当していました。
 その後は活動拠点を映画音楽やテレビ・ドラマの劇判に移し、多くの優れた作品を生み出していきました。特に手塚治虫さんのアニメーション劇映画「火の鳥2772」(当時、高校生だった千住真理子さんのバイオリンをフィーチャー)や「ブレーメン4」(日本テレビの「24時間テレビ」枠で放送)の音楽を担当し、これまで冨田勲さんが担当していたこの分野をしっかり受け継ぎ、手塚作品に大きく貢献しました。
 ポップス界でも、作曲家、アレンジャーとして幾多の優れた仕事をこなしてきました。同じシング・アウトのメンバーであった石川セリさんのファースト・アルバム『パセリと野の花』をこのソロ・アルバムが出た同じ年(1972年)に全面的に手がけました。その後も上田知華+KARYOBIN(弦楽四重奏をポップスに織り込んだアレンジが印象的)、益田宏美さん(「ママは小学4年生」主題歌等)、最近ではしらさやえみさんの作品の編曲が印象的に残っています。
 樋口康雄さんのアレンジの特長ですが、幼い時からクラシック音楽を素養の基盤にし、若くからジャズ・バンドの編曲を手がけたこともあり、管弦楽の編曲には非常に定評があります。ホーンとストリングスを多用したドリーミー・タッチなアレンジをやらせたら、日本で右に出るものはいません。僕は勝手に「日本の Bob Thompson !」と呼んでいます(笑)。
 樋口康雄さんがこのソロ・アルバムを発表した時、若干19才!。まだ歌唱に幼さなが残るものの、そのサウンドは今聴いても瑞々しく、現在でも色褪せることはありません。その後もワーナーからも数枚ソロ・アルバムをリリースしているので是非ともCD化を。
 もうひとつお願い。過去に樋口康雄さんが手がけたNHKのドラマ「ふりむくな鶴吉」のテーマをもう一度聴きた〜い!

(富田英伸)





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