鈴木祥子

Sickness

2000 " Love,painful love " WEA/Aka Records WPC6-10099/CD





 Rickie Lee Jonesの1997年の『Ghostyhead』以来3年ぶりの新作『It's Like This』は、 1991年のDon Wasのプロデュース『Pop Pop』の続編を感じさせる彼女の好きな歌へのオマージュといえる作品に感じます。
 オマージュといえば、私の1999年のベスト3に挙げた鈴木祥子の『あたらしい愛の詩』は、1970年代のシンガー・ソングライターの音楽や1970、80年代のアメリカン・ロックの文脈を自分の音楽の中で消化させ、その時代の音楽へのオマージュといえるアルバムという感じでした。
 その鈴木祥子が新作『Love,painful love』をリリースしました。このアルバムは一人多重録音で完成されているのですが、彼女のマルチ・ミュージシャンぶりは彼女の音楽経歴を見れば納得できます。1988年にシンガーとしてデビューする前から、原田真二、小泉今日子(後に「優しい雨」というヒット曲が生まれる)らのバック・ミュージシャンとして活動していましたし、鈴木慶一と高橋幸宏のユニット"ビートニクス"にも参加、ソロ・デビュー後もライブでキーボード、ギター、ドラムスとファンには納得いくものでした。


 ところで、新作の中の「Sickness」は、セルフ・ライナー・ノーツによると「夢とか希望とかあこがれは、扱い方を間違えると人生を壊してしまう」というメッセージを込めた辛辣な内容ですが、波のような感じのシンセの音をバックに彼女のヴォーカルのはつらつとした感じが、メロディと詞に妙にマッチして重々しさを軽やかに歌っていて魅力的です。
 他に、「Gimmie Some Life」や「不安な色のBlue」もそれぞれダイレクトな感情のほとばしりを、前者はちょびっとプログレ風な雰囲気のロックに、後者はまさにアメリカン・ポップスといった味付けで聞かせてくれます。
 アルバム・タイトルが示すように愛の痛み、苦しさなどのややもすると内省的な歌詞が多いのですが、例えば、「舟」のような"負"のイメージをバンジョーとアコーディオンでカントリー・タッチで聞かせるなど、音楽に対する真摯な姿勢を隅々に感じることができる鈴木祥子の音楽はまだまだ目(耳)が離せません。

(伊東潔)




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