Ned Doheny

Valentine

1976 "Hard Candy" CBS SONY CSCS6022/CD





 この時期になると、男子も女子もなにやらそわそわとして落ち着かないものです。ちょっとした恋の鞘当てなんかも繰り広げられたり・・・。そんな純真な男女(なんだかこれも死語だなあ)のドキドキ感も何となく昨今の商魂たくましいチョコレート業界と小売店業界の陰謀に踊らされてしまって、ただの消費イベントとしての「年中行事」に収まった気がしないでもありません。もう20年も昔、初めてもらった「不二屋ハートチョコレート」の味を思い出すと今でもほんのすこし心のどこかがチクンとしてしまいますが、いい歳してこんなアホなことを考えて遠い目をしている筆者はホント、もうオヂさんです。 ヴァレンタイン・デーという儀式がこれほど熱狂的なイベントになっているのは日本ぐらいだそうですが、ご多分に漏れずちょっとこのイベントにのっかって今日はちょっと切ない Ned Doheny をご紹介しようと思います。


 Ned Doheny はウェスト・コーストを代表するシンガー・ソングライター。Jackson Browne、Steve Noonan と Asylum Records に同時期に在籍したこの3人を称して「オレンジ・カウンティーの3人男」と言うのだとか。 彼は他人への楽曲提供も含め寡作ながらこつこつと作品を作り続け90年代の初頭まではアルバムも発表していました。ここのところ消息を聞きませんが日本では先日、dremasville records から88年の『Life After Romance』がリ・イシューされています。そのうちにフラッとカッム・バック作を発表してくれそうな気がします。
 さてこのアルバム『Hard Candy』は彼にとって2枚目のアルバム。アルバムが発売された76年あたりから Boz Scaggs の『Silk Degrees』を引き合いに出すまでもなくいわゆる AOR ブームが始まるわけで、このアルバムもそうした一群のレコードの一枚に数えられているようですが、私にとっては先の Jackson Browne らと同じようにアコースティックで透明感溢れる楽曲を作ってきたシンガー・ソングライターの歌という感じがします。
 そんな彼の存在感をもう少し洗練された形で引き出したのがプロデューサーの Steve Cropper 。ちょっと異色な組み合わせのような気もしますが、アコースティックながら骨の太いソウル・オリエンテッドなアルバムに仕上がっています。参加ミュージシャンとして David Foster をはじめ、盟友 J.D.Souther、Linda Ronstad、Glen Frey や Tower Of Power のホーン・セクションなどそうそうたるメンバーが名を連ね、アルバムにより一層の奥行きを持たせています。
 ところで、アルバムの最後にひっそり収められた小品「Valentine」。彼の歌声がより悲しげに聞こえるこの歌、実は失恋の歌なのですね。"Valentine" というのもあのイベントのことではなくて彼女の名前のようです。そんなわけでやっぱりこの時期にこの曲を出したのは失敗だったかなあ。

(脇元和征)





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