Danny Kortchmar

For Sentimental Reasons

1973 "Kootch" Warner WPCR-10539





 まだまだ出てくるワーナーの「名盤探検隊シリーズ」。これまた名盤の名に違わぬアルバムの、世界初CD化です。
 何と形容して良いのか分からないけど、「とにかくかっこいいなあ」、というのがこの人の印象。とにかくいろんなタイプの音が詰まっていて、それらが渾然一体のつぶてのようになって耳に届きます。
 Danny"Kootch" Kortchmar 1946年ニューヨーク生まれ。James Taylor は幼なじみ。1964年にドラマーの Joel O'Brian らと組んで The Kingbees というグループでプロとして活動をはじめます。その後 Joel に James Taylor を加えて幻のグループ、The Flying Machine を結成します。アルバムを一枚残して James Taylor はソロ・デビュー。Danny は Carole King、Charles Larkey とこれまた幻のグループとの評判高い The City を結成。(しかし、この人幻ばっかりだな。笑)一枚きりのアルバムを残します。Carole King はこのアルバム『Now That Everything's Been Said』を足がかりにして、シンガー・ソングライターとして大転換をはかるわけで、これ以降の彼女の活躍にこのアルバムで活動をともにした Danny らが与えた影響は大きなものがあったと思います。このアルバムもすばらしいので是非一度おためしあれ。


 The City を経て、旧友Joel O'Brian、Charles LarkeyにAbigale Hanessらと作ったグループが Jo Mama。このグループが残した2枚のアルバムは昨年同じ「名盤探検隊シリーズ」で CD 化されています。ソウル、ブルース、カントリー、ジャズの要素をふんだんに盛り込んだ作風は本作へと受け継がれていきます。
 1973年発表の本作は Danny Kortchmar にとって初のソロ・アルバム。リズム・セクションのほとんどを一人でこなしたシンプルな作りですが、随所にフルートやサックスが効果的に使われていて、奥行きのある構成になっています。また Jo Mama で一緒だった Abigale Haness らがコーラスで参加しているのも見逃せないところ。
 1曲目の「Put Your Dancing Shoes On」から、腰の強いリズムとうねるようなヴォーカルがなぜか新鮮に心地よく響いてきます。「Up Jumped The Devil」は"悪魔"という名の誘惑に打ち勝てずに犯罪に手を染めた男をテーマにしたヘビーな内容の曲です。フルートがいかにも誘惑しようとする悪魔のささやきのよう。
「For Sentimental Reasons」はスタンダードながらしっとりとしたグルーヴにあふれており、さまざまなジャンルの音楽を昇華させたエッセンスが詰まっている感じ。シタールをフィーチャーしたソウルフルなバラード「You're So Beautiful」や彼のクールなギター・プレイが聴けるブルース・テイストの「Don't Jump Salty」などヴァラエティに富んだ内容ながら、統一感のある音作りが印象的です。
 ブルースやカントリーなど泥臭い音楽を土台にしながらも決してそういう方向に流されることのない音作りに冒頭のような「かっこいい」という印象を抱いたのかもしれませんね。そういうところに彼が持っているインテリジェンスみたいなものを感じます。そんなこともあってか Danny Kortchmar はこのアルバム以降も優秀なセッション・マンとして幾多のレコードに参加しています。

(脇元和征)






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