2023.11.03
Now and Then Now and Then
The Beatles

Single (2023)

2023年11月2日、The Beatlesの新曲 "Now and Then" が出ました。とても気に入ってリピートしています。AIの話も少し。

発売の流れは不意をつかれたもので、たった1週間前の10月26日にユニバーサルがプレスリリース、何種ものアナログシングル3000円〜とか、カセット、赤盤青盤とてんこ盛り予告。ファンはあわててあちこちのサイトを巡ってほしいフォーマットを予約。そんな中後出しでCDシングルの発売決定なんだ770円かとか。発売日の今日、シングル盤が店頭にも並び始めました、まずはストリーミングで聴いています。この発売大作戦、本当に寝耳に水で、先週のラジオ番組『ディスカバー・ビートルズ』でも和田唱さんが「新曲の話どこに行った」と言ってたくらいなので誰も知らなかったんじゃないかな!6月にポールから製作中とのリークがあったんだけど、それっきり。

制作過程が、発売1日前に12分間のドキュメンタリーとして公開されました。


ポールが語ります。

「1980年、ジョンを失って全てが終わった」

しかしヨーコがジョンのテープを持っていて、1994に録音の機会が訪れます。
ちらっと "Now and Then" のオリジナルデモの音が聴こえます。ポール、ジョージ、リンゴの3人は、"Free as a Bird", "Real Love" の2曲を完成させますが、"Now and Then" はお蔵入りになります。ジョンの声をはっきりと引き出すことができなかったという。

「2001年、ジョージが亡くなり、気持ちが完全に打ち砕かれた」

そこから更に四半世紀、映画『Get Back』で使われた技術が持ち込まれます。AIを使ってジョンの声を取り出します。

「クリスタル・クリア」

45年前のジョンの声へ、現在のポールから出た驚きの声です。

ポールは、ジョンのヴォーカルトラックを使い、曲を一気にまとめ上げ、ジャイルズ・マーティンらの協力を得て完成にこぎつけました。

"My God, How Lucky was I to have those men in my life to work so intimately."


ジョンの声と現在のポールとリンゴの演奏、ジョージが1994年に足したギターも。間奏のスライドギターはポールがジョージのトリビュートのつもりで弾いたとのこと。コーラスはビートルズの別な曲から「移植」し、オーケストラ録音時の楽団にはポールの新曲だと苦しい嘘をついて秘密を守ったようです。元デモから一部を削り、シンプルな構成にしたのが良かったと思います。歌詞は誰に向けたものかを考えるのも楽しいです。

最後にテクノロジー。6月に情報が出た時は「AIで新曲」という取り上げられ方をして、心配した向きもあったかと思いますが、完成品を聴いてみると、とてもよいテクノロジーの使い方でした。

そのテクノロジーはノイズだらけのデモテープから、ジョンの声をきれいに分離するソフトウェア。Machine Audio Learning (MAL)という名前のだそうで、Mal Evans@ローディーだの、HAL@2001年だの言われていますが、これがAIです。MALは映画『Get Back』で監督のピーター・ジャクソンにより導入され、さらに『Revolver 2022』でジャイルズ・マーティンが試し、今回に至った模様(おそらくポール先生が現在のツアーでジョンと"I've Got a Feeling" デュエットをしてるのもこのおかげ)。これ音声分離とか音源分離と言われる技術で、ディープラーニングで音の粒(時間と周波数)がジョンのヴォーカルどうかを学習しておき、テープの音を分離していくもののようです。ジャイルズはインタビューでこのソフトウェアをデミキシングと呼んでいて、目標とすればヴォーカルや楽器ごとにマルチトラックに「戻す」ことのはずですが、複数の音源を分離できるようですね。あと、AIはジョンの声を分離したあと、さらに「磨く」ようなこともしているかと思います。なお、その先にいわゆる生成AIにまでいくとAI美空ひばりになるのですが(AI美空ひばりが悪いの意図はない)それは行っていない模様。4人のビートルズ時代のコーラス音声の移植は、まあ冷凍自己輸血みたいなものかしら。よいAIの使い方です。ジャイルズの常識的なところが良かったのではとみています。

さて、発表から24時間ほどたち、ビデオクリップが公開されました。先のピーター・ジャクソン監督作です。先だってジャクソン監督から「何も映像素材がない中、制作を引き受けさせられた」という愚痴のインタビューが公開されていたのですが、おもろい、最高です。今回ポールとリンゴも顔を合わせていないはずですが、4人の共演を見せてくれるなんて。最後のシーン、ポールのおじいちゃんが出てこないかヒヤヒヤしましたが。


(たかはしかつみ)

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