2022.06.11 - Songwriter
The Frog The Frog
João Donato

(1968)

【シリーズ : ボサノバの源流を探る(その1)】

Songwriterシリーズ
今回は João Donato を取り上げます。

João Donato はブラジルの音楽家で、1950年代中期、後期辺りから発生した新たな音楽スタイル、ボサノバの誕生にも深く関わってきた人でもあります。

まずは、João Donato を印象付けした特長あるこの曲から聴いてみましょう。

The Frog(A Rã)(Joao Donato) / Sérgio Mendes & Brasil '66(1968)

Sérgio Mendes & Brasil '66 の1968年のアルバム『Look Around』収録曲、"The Frog"= 蛙。一度聴いたら忘れられないナンバー。言葉も"パーカッション"になっています。後半になってくるとホーン、ストリングスも絡んで来て気持ちも高揚。魅力的なボーカルは Lani Hall。ストリングスアレンジは Dave Grusin 。


The Frog(A Rã)(Joao Donato) / João Donato(1970)

1970年、Joao Donato はアルバム『A Bad Donato』でこの曲をセルフカバーします。変則リズム、ワウの効いたキーボードにトランペット。曲を一度、解体してもう一度組み上げた感じで、まったく違う曲をように仕上げます。これもメチャ心地いい。ドラムスに Dom Um Romao、 Mark Stevens、ベースに Chuck Domanico、パーカッションに Porcaro 三兄弟の父、 Joe Porcaro。プロデュースは Tommy LiPuma です。


The Frog(A Rã)(Joao Donato) / Sergio Mendes(Live at Java Jazz Festival、2007)

Sergio Mendes はこの曲をとても気に入っており、2006年のソロアルバム『Timeless』でも取り上げています。このバージョンはラップとの融合です。ライブでも度々演奏レパートリーに加えているようです。今回は2007年の Java Jazz Festival の様子を。




João Donato は1934年、ブラジル、リオブランコ生まれ。10代の時から楽団でアコーディオンを弾いていたそうです。1953年頃に Os Namorados というラテングループを結成しています。1955年に ギターリスト、作曲家の Luiz Bonfá のデビューアルバムに参加。このアルバムで João Donato は3曲程、アコーディオンを演奏。そして、"Minha Saudade" という曲を書き下ろしました。この曲はすぐ評判となり、他のミュージシャン達も取り上げ、今ではブラジリアンミュージックの人気曲となっています。この Luiz Bonfá のアルバムにピアニストとして参加したのが、Antonio Carlos Jobim です。

Luiz Bonfá と Antonio Carlos Jobim は 1956年、詩人、作家の Vinicius de Moraes が書いた戯曲『Orfeu da Conceição』のために楽曲を書き、その年、その曲が Odeon Records からリリースされます。クレジットがないため詳細不明ですが、この音楽制作に João Donato が参加した可能性は高いと思われます。戯曲『Orfeu da Conceição』は1959年の映画『黒いオルフェ』(Black Orpheus)となります。

現在、最初のボサノバソングは1959年、Antonio Carlos Jobim が書き、João Gilberto が歌った "Chega De Saudade"(邦題"想いあふれて")と言われることが多いですが(Antonio Carlos Jobim と João Gilberto が出会ったのは1957年頃)、それ以前にもこういったブラジルの若いミュージシャン達によるセッションを通じて、1950年代中期頃には、ボサノバが芽吹いていたのではないかと考えられます。

João Donato は1960年以降、アメリカを中心に音楽活動を続けました。Antonio Carlos Jobim や João Gilberto は故人となってしまいましたが、2022年現在、João Donato は87才でご健在です。

これまで作曲家として João Donato が書いた曲をいくつか聴いていきたいと思います。


Minha Saudade(João Donato-João Gilberto) / Luiz Bonfa(1955)

Minha Saudade(João Donato-João Gilberto) / Wanda Sá and João Donato(2003)

1955年の Luiz Bonfa のデビューアルバム『Luiz Bonfa』から。ギターは Luiz Bonfa で、アコーディオンは作者の João Donato によるもの。明るいイメージの曲で、当時ブラジルで多くのカバーが生まれました。
2003年、Sérgio Mendes & Brasil '65 の紅一点だった Wanda Sá が日本主導で制作されたアルバム『Wanda Sá Com João Donato』から。ピアノとアレンジは João Donato です。作詞をしたのは João Gilberto 。このアルバムは João Donato が書いた楽曲が多く含まれています。


Sambou Sambou(João Mello-João Donato) / Dóris Monteiro(1964)

Sambou Sambou(João Mello-João Donato) / Joyce (Live、2005)

1950年代からブラジルで活躍している女優、シンガーの Dóris Monteiro の1964年のアルバム『Doris Monteiro』より。Walter Wanderley がオルガンを弾いています。これも明るい曲で人気曲となり、他のブラジリアンミューjシャン達が好んで取り上げました。
2000年、Joyce が João Donato とコラボしたアルバム『Joyce Participação Especial De João Donato – Tudo Bonito』をリリースしました。今回は Joyce が João Donato とジョイントしたスタジオライブを。

翌年、João Donato の事実上のデビューアルバム『Sambou, Sambou』でセルフカバーしました。コンボスタイルでの演奏です


Keep Talkin'(João Donato-Sandy Crystal) / Chris Montez(1966)

Amazonas(Keep Talking)(João Donato) / João Donato(1973)

この曲は元々、インストナンバーで、"Amazon"、"Amazonas" というタイトルでTony Hatch や Cal Tjader などが演奏していたナンバーです。1966年に英語詩を付けて、Chris Montez が歌いました。A&M Records からのリリース。アレンジは Nick DeCaro が担当しました。プロデュースは、Herb Alpert と Tommy LiPuma が就いています。もしかするとこのレコーディングにきっかけになり、1970年の João Donato の Tommy LiPuma プロデュースのアルバム『A Bad Donato』が生まれたのかもしれません.
1973年の João Donato のアルバム『Quem É Quem』からのセルフカバーも合わせて。


Cadê Jodel?(João Donato) / João Donato(1970)

Cadê Jodel?(João Donato) / João Donato(1973)

先に紹介した1970年のシングル "The Frog" のB面に収録されていたナンバー。これも変則リズムですが、何故か心地よいです。
1972年に自身のアルバム『Quem É Quem』で再度、取り上げます。今回はボーカル入りで、かなり落ち着いたアレンジとなっています。


Quem Diz Que Sabe(João Donato)/ Bossa Rio(Theatre Expo '70, Osaka、1970)

1970年、大阪府吹田市で、日本万国博覧会、EXPO'70が開催されました。その時、Sérgio Mendes & Brasil '66、そして Bossa Rio が来日して大阪の The Theatre Expo'70 で演奏しました。その時に João Donato はバック演奏者、キーボード担当として一緒に来日しています。Bossa Rio が João Donato の曲 "Quem Diz Que Sabe" を歌いました。Bossa Rio の女性ボーカルは Gracinha Leporace で、Sérgio Mendes の奥さんになった女性です。このライブのプロデュースはその Sérgio Mendes でした。


Nasci Para Bailar(João Donato-Paulo André Barata) / Nara Leão(1982)

1970年代以降、João Donato は自身のアルバム以外に、Gal Costa、Joyce、Nara Leão、Caetano Veloso、Marcos Valle といった人気シンガー、ミュージシャンのサポートも行ってきました。その中から1982年の Nara Leão のアルバム『Nasci Para Bailar』から表題曲、"Nasci Para Bailar" = 私は踊るために生まれました"を。 João Donato らしい明るい曲です。




Canção do Mar From "Copacabana Palace" / Antonio Carlos Jobim、Luiz Bonfá and João Gilberto(1962)

最後にちょっと珍しい映画の一部を。
1963年の João Gilberto がアメリカのサックス奏者、Stan Getz とのコラボレーションしたアメリカ制作のアルバム『Getz/Gilberto』がセールスが好調、その後ゴールドディスクとなり、ボサノバが世界中に周知されるきっかけになったと言われています。Creed Taylor がプロデュースし、João Gilberto の妻だった Astrud Gilberto そして Antônio Carlos Jobim が参加、Verve Records からリリースしたアルバムです。

このアルバム『Getz/Gilberto』リリースの1年前に公開されている映画がこの映画『Copacabana Palace』(1962)で、イタリアが制作した映画です。いわゆる、この時代に流行った観光のための映画です。

この映画の中で、先に登場した、ボサノバを創造した先人達、Luiz Bonfá、Antonio Carlos Jobim、そして João Gilberto が一緒に出演し、海辺で歌っています。3人揃っての映画出演は、ボサノバのこれからの流行に一役買ったのかも知れません。3人のミュージシャンと一緒に共演しているのが、クロアチア出身でイタリアで人気あった女優、シルヴァ・コシナ(Sylva Koscina)です。


* イタリア映画『Copacabana Palace』(1962)。左から、Luiz Bonfá、João Gilberto、Antonio Carlos Jobim、一番右の女性が シルヴァ・コシナ(Sylva Koscina)。




(富田英伸)

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