2021.09.01
小犬 小犬
kiss the gambler

黙想 (2021)

 インディーズバンド、秘密のミーニーズのミニ・アルバム『Down In The Valley』のリリースに合わせたライブが7月に行なわれました。私が今回取り上げる女性シンガー・ソングライター kiss the gambler(以下敬称略)を知ったのはそのライブでした。

 kiss the gambler は、2018年頃から宅録シンガーとして、「かなふぁん」という名前でネットの自主製作音源を発表するサイトへの自作曲の披露等を経て、その後 kiss the gambler として音楽活動をしています。

 因みに、kiss the gambler の名前の由来については、2020年3月30日の下北沢440でのご自身のライブ(YouTubeで御覧になれます)の中で説明されています。「意訳で仕事とか会社を辞めて芸術に賭ける人を応援する」という意味と名前の由来が披露されました。

 さて、kiss the gambler が2018年から今までに配信でリリースした歌を中心に集めたファースト・アルバム『黙想』が彼女の自主制作レーベル City Bike Records から8月25日にリリースされました(通販を中心に数店舗のCDショップでも販売中)。

 タイトルの『黙想』から重々しく内省的な音楽のイメージを受けますが、サウンド面ではレゲエのリズムにのった軽快な歌とか、テレビ『みんなのうた』から流れる子どもと楽しめるような歌他、バラエティー豊かな歌がちりばめられたアルバムに仕上がってます。

 その中で印象に残る「小犬」は、鉄琴とアコースティック・ギターをバックにして歌われる。自分を小犬に投影した、哀しく切ない歌。彼女の歌声だから、より一層、歌詞から伝わる哀しみや心の痛みがじわじわと響きます。

 ただ、歌詞の最後で「渡り鳥が来たら/あの木にも/新しい命が/吹き込まれるよ/輝き続ける/大切なもの/奥にしまって/進んで行こう/ラララララ〜」、心の中にひとすじの灯りが感じられる歌のおわり。小品ながら、彼女の歌の魅力が伝わる歌だと思います。

 『黙想』に集められた歌は、kiss the gambler の等身大(というと陳腐な評言になりますが)の彼女の見た世界、ご自身の家族、周辺の人々他との日常の小さな、とても大切な瞬間(とき)を時にユーモア、時に優しさで包み込むように歌われます。それらの歌がアルバム・タイトル『黙想』への彼女の想いと結びつく破片が詰まっているようにも受け取られます。

 kiss the gambler の歌が多くの人々の耳に届くことを期待し、大袈裟ですが、新しいシンガー・ソングライターの誕生に立ち会えたことを喜びたいと思います。

今日の1曲

(伊東 潔)

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