2021.07.03 - Cinema Music Composers
Skylark Skylark
Hoagy Carmichael

(1954)

Cinema Music Composers シリーズ
今回から Hoagy Carmichael を取り上げます。

Hoagy Carmichael は主に1930年代から1950年代にかけて活躍した作曲家であり、シンガーであり、ソングライターです。映画にも俳優として出演していたので、映画音楽とも深い関わりがありました。今回から2回に分けて、Hoagy Carmichael を取り上げます。

Hoagy Carmichael こと Hoagland Howard Carmichael は1899年、インディアナ州ブルーミントンで生まれました。一家は裕福ではありせんでしたが、母親はピアノが弾ける人だったので、幼少の頃からピアノに親しんでいたそうです。家族はインディアナポリスに移り住み、建設現場や自転車チェーン工場に働きながら、ジャズ・ピアノの即興演奏に触れます。その後、ピアノやバイトで学費を稼ぎながら大学法学部を卒業。法律事務所に働き出しますが、彼の興味はジャズでした。

Hoagy Carmichael は法律事務所に働きながら、1924年、コルネット奏者の Bix Beiderbecke と出会い、彼の楽団、The Wolverine Orchestra のために "Riverboat Shuffle" という曲を書きます。この曲が Hoagy Carmichael が書いた最初のレコーディング曲となります。その Bix Beiderbecke を通じて、Louis Armstrong と出会い、1929年には Louis Armstrong のために、"Rockin' Chair" を書いています。

Hoagy Carmichael は学生時代から温めていたメロディを元に1つの曲に仕上げ、1927年に自らの演奏で録音します。それが "Stardust" でした。その時の演奏者の名義は、Hoagy Carmichael and His Pals となっています。この曲は後に、Mitchell Parish が詩を付け、多くのジャズシンガー達に歌い継がれていくことになります。

1929年、Hoagy Carmichael はニューヨークに移住、証券会社で働き出します。証券会社勤務傍ら、作曲活動に注力を傾けるようになります。1930年、Hoagy Carmichael & his Orchestra 名義で "Georgia On My Mind" を録音します。詩は、Stuart Gorrell という人が書き、ボーカルを取ったのは Hoagy Carmichael 自身でした。Hoagy Carmichael が書いた、"Stardust" や "Georgia On My Mind" はその楽曲の良さが評判となり、旧知の Louis Armstrong や Cab Calloway、Bing Crosby など著名なジャズミュージシャンやシンガー達が取り上げるようになります。


Hoagy Carmichael は"Georgia On My Mind" のヒットが自信となって1931年に証券会社を辞め、ブロードウェイ49番ストリートに出来たばかりのブリルビルディングの1室を借り、専業ソングライターの道に進むことになります。1933年、そのブリルビルディングで、専業作詞家の Johnny Mercer と出会いコラボレーションを開始します。

また、Hoagy Carmichael は作曲、演奏者だけでなく、その独特な歌唱についても人気が出るようになります。1936年にはワーナーブラザーズ社の映画『海は桃色』(ANYTHING GOES)の挿入歌、"Moonburn" という曲を書き、映画の中ではビング・クロスビー(Bing Crosby)が歌いました。このようにハリウッドと関係ができた Hoagy Carmichael は結婚を契機に西海岸に移り住みます。

Hoagy Carmichael はハリウッドで音楽制作のみならず、その個性的な歌唱とその佇まいや存在感が注目され、映画にも出演するようになります。初出演した映画は1937年のケイリー・グラント(Cary Grant)主演の映画『天国漫歩』(TOPPER)で、ピアノ弾き語りで "Old Man Moon" という歌を歌っています。

作曲活動も精力的に続けて、1930年代は、職業作詞家の Frank Loesser と組んで、"Two Sleepy People"、"Heart and Soul" といったロマンティックな曲を書いています。また、Ned Washington.が詩を書いた "The Nearness of You" も後に多くのジャズシンガー達に愛されました。


第1回目は、Hoagy Carmichael の代表曲を作品発表からリリースが近い年代のバージョンと僕が好きなバージョンを比較しながら聴いてきたいと思います。


Stardust(Hoagy Carmichael) / Hoagy Carmichael And His Pals(1927)

Stardust(Hoagy Carmichael-Mitchell Parish) / Nat King Cole(1957)

Stardust(Hoagy Carmichael-Mitchell Parish) / Spanky and our Gang(1968)

初出は1927年に Hoagy Carmichael And His Pals 名義でリリースしたインストナンバーです。1929年に Mitchell Parish が詩をつけて、多くのシンガー達に歌われスタンダードナンバーになります。Mitchell Parish は後に "Deep Purple" などの詩を書く職業作詞家です。この曲は Hoagy Carmichael が学生時代の頃から自ら口ずさんでいたメロディだったそうです。
1957年録音の Nat King Cole のバージョンは Gordon Jenkins が指揮、アレンジを施しています。とってもロマンチック。雰囲気があります。
1968年録音の Spanky & Our Gang のバージョンも合わせて。素晴らしいコーラス・アレンジ。ラスト、"Like To Get To Know You" のコーダに繋がります。


Two Sleepy People(Hoagy Carmichael-Frank Loesser) / Ella Logan And Hoagy Carmichael With Perry Botkin And His Orchestra(1938)

Two Sleepy People(Hoagy Carmichael-Frank Loesser) / Carly Simon and John Travolta(1997)

1938年の映画『The Big Broadcast of 1938』のために書かれたナンバー。同年に Hoagy Carmichael と女優の Ella Logan がデュエットしたバージョンがレコード化されました。恋人達が眠いにもかかわらず、夜明けまで一緒いて、おやすみ、と言い出せない、そんな可愛らしい曲です。演奏は Valiant Records 中心に活躍したアレンジャー、Perry Botkin Jr. の父である、Perry Botkin の楽団が演奏しています。途中、"Stardust" のメロディが出てきます。
多くのカバーがありますが、今回は1997年の Carly Simon と俳優の John Travolta がデュエットしたバージョンを。これも素敵なデュエットです。


The Nearness Of You(Hoagy Carmichael-Ned Washington) / Glenn Miller and His Orchestra with vocals by Ray Eberle(1940)

The Nearness Of You(Hoagy Carmichael-Ned Washington) / Jo Stafford(1956)

1938年に作られたナンバーで、1940年にこの Glenn Miller 楽団のバージョンが最初期に録音されたレコードと伝えられています。途中からのボーカルは Ray Eberle という人で、兄弟の Bob Eberly も Jimmy Dorsey Orchestra で歌っていたシンガーでした。同年には、Dinah Shore も同じレコード会社、 Bluebird Records で吹き込んでいます。
これも多くのジャズシンガー達が取り上げましたが、今回は1956年の Jo Stafford のバージョンで。抑制ある素晴らしい歌唱。演奏は夫の Paul Weston のオーケストラです。


Heart And Soul(Hoagy Carmichael- Frank Loesser) From "A Song is Born" / Larry Clinton and His Orchestra with vocals by Bea Wain(1938)

1938年、パラマウントフィルム『A Song is Born』から。Larry Clinton 楽団の専属だった Bea Wain の歌唱です。詩はブロードウェイの作家で、作曲家である Frank Loesser が付けました。


Skylark(Johnny Mercer-Hoagy Carmichael) / Harry James and His Orchestra with vocals by Helen Forrest(1942)

Skylark(Johnny Mercer-Hoagy Carmichael) From "MIDNIGHT IN THE GARDEN OF GOOD AND EVIL"/ KD Lang(2007)

1942年に発表された "Skylark"。元々はブロードウェイミュージカルのために制作された曲。メロディは友人で28才で早世したコロネット奏者の Bix Beiderbecke の即興からヒントを得たと言われています。1942年前後はこの Harry James 楽団以外に Glenn Miller 楽団、 Gene Krupa Orchestra、Dinah Shore など多くのジャズミュージシャンが取り上げました。
2007年のクリント・イーストウッド(Clint Eastwood)監督作品『真夜中のサバナ』(MIDNIGHT IN THE GARDEN OF GOOD AND EVIL)のエンディングでこの曲が取り上げられました。印象的な少女の石像のシーンで k.d. lang がしっとりと歌い上げました。ちなみにこの映画のサウンドトラックは全て詩を Johnny Mercer が書いた作品で占められています。


Georgia on My Mind(Hoagy Carmichael-Stuart Gorrell) / Hoagy Carmichael (1930)

Georgia on My Mind(Hoagy Carmichael-Stuart Gorrell) / Ray Charles(1960)

1930年、Hoagy Carmichael が証券会社勤務傍ら、吹き込んた曲です。コロネットは友人の Bix Beiderbecke が吹いています。その後、ジャズシンガーのみならず、東西問わず、多くのシンガーに歌われ、人々に愛されました。
1960年、Ray Charles が取り上げ、US Billboard Hot 100 の1位、Ray Charles にとっても代表曲となります。

(第2回に続く)


* 『真夜中のサバナ』(MIDNIGHT IN THE GARDEN OF GOOD AND EVIL)

(富田英伸)

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