2020.07.04 - Cinema Music Composers
Mack The Knife Mack The Knife
Kurt Weill

(1928)

Cinema Music Composers シリーズ
今回は Kurt Weill を取り上げます。

Kurt Weill は1920年代から活躍したドイツ出身の作曲家ですが、今回は1935年にアメリカ合衆国に移住してから手掛けたアメリカスタイルのポピュラーミュージックを書いていた時代を取り上げていきたいと思います。

まずは Kurt Weill の経歴等を簡単に。
Kurt Julian Weill は1900年にドイツのユダヤ人の家系に生まれています。20代にいくつかの交響曲や協奏曲を書いています。徐々に劇場音楽や声楽に関心を持つようになり、1928年にドイツの劇作家、詩人、演出家であるベルトルト・ブレヒト(Berthold Brecht)と戯曲『三文オペラ』(The Threepenny Opera)を作曲します。しかし、ナチス・ドイツが台頭した時代で、Kurt Weill はユダヤ人であったため、ナチス当局から常に監視されていました。コンサート会場でも暴動等が発生、中断を余儀なくされたこともあったそうです。

1926年に女優で歌手のロッテ・レーニャ(Lotte Lenya)と結婚。ロッテ・レーニャは公私にわたって、Kurt Weill を支えていくことになります。1933年にドイツを脱出する形でパリへ移住、そこでバレエ『七つの大罪』(The Seven Deadly Sins)の音楽を書いています。

1935年にはロッテ・レーニャと一緒にパリからアメリカ、ニューヨークに移住。再度新天地アメリカで音楽活動を再開します。Kurt Weill はこれまで母国ドイツで作曲していたスタイルではなく、アメリカのポピュラーミュージックや劇場音楽を研究して楽曲を書き進めました。1938年には Kurt Weill と同じく、ナチから逃れ、ドイツからアメリカに移住した映画監督、フリッツ・ラング(Fritz Lang)監督の『真人間』(YOU AND ME)の音楽を担当します。第2次世界大戦中は空襲監視員として働き、1943年にアメリカの市民権を得ました。

Kurt Weill はニューヨークでミュージカル『Johnny Johnson』(1936)、『Knickerbocker Holiday』(1938)、『Lady in the Dark』(1941)、『Lost in the Stars』(1949)などを手掛け、そこから後述する楽曲達が生まれ、アメリカのシンガー達が歌い継ぎました。

ミュージカル『Lost in the Stars』(1949)が遺作となり、翌年の1950年、Kurt Weill は50才で天に召されました。

今回は Kurt Weill がアメリカで書いた作品を中心に聴いていきたいと思います。

Moritat vom Mackie Messer(Kurt Weill-Bertolt Brecht) / Lotte Lenya(1956)

Mack The Knife(Kurt Weill-Bertolt Brecht-Marc Blitzstein-Turk Murphy)/ Bobby Darin(1959)

Mack The Knife From "BEYOND THE SEA" / Kevin Spacey(2002)

1928年初演の舞台『三文オペラ』の劇中歌として書かれました。今回は奥さんのロッテ・レーニャが歌ったバージョンを。アメリカでは1955年に A Theme from The Threepenny Opera (Mack the Knife)" として、Louis Armstrong が歌い世に知れ渡ります。
1959年、ボビー・ダーリン(Bobby Darin) が "Mack the Knife" としてシングルリリース。Billboard Hot 100 の9週連続1位、Bobby Darin の代表曲となりました。
2002年の映画のボビー・ダーリンの伝記映画『ビヨンド the シー〜夢見るように歌えば〜』(BEYOND THE SEA)から。ケヴィン・スペイシー(Kevin Spacey)が実際に歌っているそうです。


September Song(Kurt Weill-Maxwell Anderson) From "SEPTEMBER AFFAIR(1950)" / Walter Huston(1945)

September Song(Kurt Weill-Maxwell Anderson) / Jo Stafford(1955)

1938年のミュージカル『Knickerbocker Holiday』から生まれた曲です。1945年に俳優のウォルター・ヒューストン(Walter Huston)がシングルをリリースします。それを1950年の映画『旅愁』(SEPTEMBER AFFAIR)の中で使用されました。実際には映画のための再録音が使用されたとのこと。ウォルター・ヒューストンの息子が映画監督のジョン・ヒューストン(John Huston)です。
1955年の Jo Stafford のアルバム『 Jo Stafford Sings Broadway's Best』から。夫の Paul Weston 楽団の演奏です。


It Never Was You(Kurt Weill-Maxwell Anderson) / Lotte Lenya(1956)

It Never Was You(Kurt Weill-Maxwell Anderson) From "I COULD GO ON SINGING" / Judy Garland(1962)

この曲もミュージカル『Knickerbocker Holiday』から生まれた曲。もう一度、ロッテ・レーニャの歌唱で。ちなみにロッテ・レーニャは1963年の映画『007/ロシアより愛をこめて』(FROM RUSSIA WITH LOVE)に、ダニエラ・ビアンキ(Daniela Bianchi)を虐める役で出演しています。ロッテ・レーニャもボンドガールの1人と言う映画ファンもいます(笑顔)
1962年、ジュディ・ガーランド(Judy Garland)が晩年の映画『愛と歌の日々』(I COULD GO ON SINGING)で歌いました。


My Ship(Kurt Weill-Ira Gershwin) From "Lady In The Dark" / Gertrude Lawrence(1941)

My Ship(Kurt Weill-Ira Gershwin) / Julie Andrews(1958)

1941年のミュージカル『Lady in the Dark』から生まれた曲。詩は Ira Gershwin が担当。初演時、イギリスの女優、ガートルード・ローレンス(Gertrude Lawrence)がキャスティングされ、この曲を歌いました。1944年にジンジャー・ロジャース(Ginger Rogers)主演で映画化されました。
ジュリー・アンドリュース(Julie Andrews)が1958年のアルバム『Julie Andrews Sings』で取り上げました。伸びやかな歌声、一番好きなバージョンです。そのジュリー・アンドリュースは1968年の映画『スター!』(STAR!)でガートルード・ローレンスを演じることになります。


Speak Low(Kurt Weill-Ogden Nash) From "ONE TOUCH OF VENUS" / Ava Gardner(dubbed by Eileen Wilson) and Dick Haymes(1948)

Speak Low(Kurt Weill-Ogden Nash) / Tony Perkins(1958)

1944年のミュージカル『One Touch of Venus』から生まれた曲。1948年に映画『ヴィナスの接吻 』(ONE TOUCH OF VENUS)として映画化されました。エヴァ・ガードナー(Ava Gardner)の声は、Eileen Wilson という女性がアテました。映画『5つの銅貨』(THE FIVE PENNIES)でも、バーバラ・ベル・ゲデス(Barbara Bel Geddes)の歌声をアテている人です。男性側のディック・ヘイムズ(Dick Haymes)は本人が歌っています。
1958年に俳優のアンソニー・パーキンスこと Tony Perkins がアルバム『From My Heart』で歌いました。この美声で当時、とても人気があったそうです。


Here I'll Stay(Kurt Weill-Alan Jay Lerner) / Buddy Clark(1948)

Here I'll Stay(Kurt Weill-Alan Jay Lerner) / Jo Stafford(1949)

1948年のミュージカル『Love Life』から生まれた曲。Frederick Loewe とのコンビで知られる Alan Jay Lerner との作品です。同年にルーマニア出身のシンガー、Buddy Clark がシングルリリースしました。素晴らしいバリトンの持ち主です。
翌年に Jo Stafford がシングルリリース。演奏は 夫の Paul Weston の楽団。殆どビヴラートしない声が心地よいです。


Lost in the Stars (Kurt Weill-Maxwell Anderson) / Todd Duncan(1949)

Lost in the Stars (Kurt Weill-Maxwell Anderson) / The Singers Unlimited(1975)

1949年のミュージカル『Lost in the Stars』から。この作品が Kurt Weill の事実上の遺作となりました。オリジナルキャストのバリトンシンガーの Todd Duncan の歌声を。
1975年の The Singers Unlimited のアカペラ・アルバム『A Capella II』に収録されたバージョンで締めくくりたいと思います。


* 写真は Kurt Weill と Lotte Lenya。




(富田英伸)

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