2019.05.10
愛のめざめ 愛のめざめ
朱里エイコ

single (1976)

Tower Of Power (TOP) の3回目(1回目2回目)。TOPはスタジオ・ミュージシャンとしても数々のレコーディングに参加していますが、日本のミュージシャンともいくつか共演しています。TOPの番外編として今回は日本人ミュージシャンたちとのコラボレーションを見ていきましょう。その前にTOPの来日公演についても触れておきたいと思います。

TOPはライブのためにたびたび来日しています。昨年2018年も来日公演を果たしており、メンバーの入れ替わりなどによる変遷の大きなバンドではありますが、ライブバンドとしては一貫して精力的に活動をしています。80年代には、一時期TOPとして活動が困難な時期に、Huey Lewisが彼らをバックバンドとして起用し力を貸したこともあり、Huey Lewis & The Newsのメンバーとして来日したこともあります。
初来日は1974年。この初来日の時に日本人ミュージシャンと一緒にレコーディングをしています。

まずその1曲目はRCサクセション。アルバム『シングル・マン』に収められている「ファンからの贈り物」TOPのバッキングによる作品です。Emilio Castilloがインタビューで、「このレコーディングのことについてはよく覚えている。とてもいい作品でホーンのフレーズが彼らの「Oakland Stroke」に似ているなあと思った」と当時のことを語っています。しかしながら忌野清志郎はこの曲の出来があまり気に入っていなかったといいます。彼はOtis ReddingをはじめとしたR&Bが好きでのちにSteve Cropperのプロデュースでアルバムを作っていたりして、TOPのようなカチッとしたアレンジとは今ひとつ合わなかったのかもしれません。

初来日でもう1曲彼らがレコーディングに関わったのが、かまやつひろしの「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」です。彼の代表曲と言っていいこの曲はシングル「我が良き友よ」のB面。A面が吉田拓郎の手によるフォーク然とした曲で、これに抵抗のあったかまやつひろしはB面は好きにやらせてくれと、レコード会社のスタッフを口説き落とし、人づてに来日中だったTOPに演奏のオファーをしたのだそう。レコーディングの直前まで曲ができておらず、コード譜だけを先に渡して後から詞をつけたそうですから、彼の才能の奥深さに驚かされますが、名曲が生まれる過程というものは、意外とこんな風にあっさりとしたものなのかもしれませんね。それにしてもA面が”手ぬぐいをぶら下げて下駄を鳴らしてやってくる”のにB面が”ゴロワーズを吸いながらベイエリア・ファンク”ですから、この振れ幅の大きさ!。クールなTOPの演奏に乗せて「何かに凝らなくてはダメだ」という強烈なメッセージがかっこよすぎます。

そして3曲目は朱里エイコの「愛のめざめ」。朱里エイコは十代で単身渡米し歌手として長くアメリカのショービズ界で活動してきた人です。「北国行きで」のヒットなどで日本でも活躍しましたが、アメリカ仕込みのソウルフルな歌唱力が当時の日本ではまだ評価されにくかったのか、日本での大きなヒットには恵まれませんでした。
1975年にTOPが全面的に参加してアメリカで制作されたシングルは、A面の「愛のめざめ」B面の「絶対絶命」とも彼らが参加しています。彼女の歌は一聴するとアメリカ人が歌っているのではないかと思われるほどで、歌唱力も抜群です。「愛のめざめ」はフィリー・ソウルのような流麗なバラードでストリングスとホーンが美しく絡む素晴らしいアレンジ。「絶対絶命」はいかにもTOPといったファンクナンバーで、このシングルは彼らの魅力がいかんなく発揮されたプロダクションです。

TOPはその音楽性の高さと器用さから様々なミュージシャンたちのバックとしても数多くのヒット曲を影で支えています。次回はそうした一端をご紹介します。


今日の1曲

(Kazumasa Wakimoto)

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