2016.03.12 - Producer
Tug of War Tug of War
George Martin

(1982)

プロデューサーの Sir George Martin が2016年3月8日に亡くなりました。90歳でした。

Tug of War / Paul McCartney produced by George Martin (1982)


ジョージ・マーティンのプロデュースは、楽曲の瑞々しさと完成度を高度にバランスさせるものでした。楽曲の良さに忠実、それでいてアーチストに振り回されない。逆からみると、録音品質を追求するが、プロデューサーエゴを感じさせない。

この特徴をポール先生の諸作で痛感します。「007死ぬのは奴らだ」と「バンド・オン・ザ・ラン」を聴き比べてみましょう。

Live and Let Die / Paul McCartney and Wings (1973)
Band on the Run / Paul McCartney and Wings (1973)

この2作はどちらもポール先生の充実の代表作。発表は半年ほどしか離れていませんが実はなにか微妙な違いがあるのです。リズムのそろい、ヴォーカルのひっかかり、楽器のバランス・・・仕上がりのテイストが違うのです。前者はジョージ・マーティン、後者はポール自身のプロデュース。もはやどちらがいいとか悪いとかの話ではないのですが、ポールのセルフ・プロデュースには微妙な詰めの甘さがある。そこがよさでもあるのですが、ポールには好き勝手させない方がいいです。


ジョージ・マーティンのもう一つの特徴は、紳士におかしな所が混じっているところ。そもそもイギリス人にはどこかしらおかしな所があるものですが、この人は意外にヘンタイです。例えば「イン・マイ・ライフ」。間奏のピアノはサー・ジョージですが、これはテープの遅回しオーバーダブによる人工的な速弾き。端正な小品で変なことをしている。

In My Life / The Beatles (1965)

ジョージ・マーティンはピーター・セラーズの録音で「ギロチンの音が欲しかったのでいろいろやったらキャベツを切る音がよかった」みたいな話を残しています。欲しい音を得るためには野菜の試し切りさえも厭わず。これを職人気質とみていいのか、はたまたヘンタイとみるのか。とにかく曲の良さのためには、何でもする人です。しかもそれが不自然に聴こえない。無類のダブルトラック(歌の二回重ね)好きも、何らかの確信があったはず。

Mock Mozart / Peter Ustinov (1953)

こちらは俳優ピーター・ユスティノフによるお笑いモーツァルト。ジョージ・マーティンのプロデュース出世作だそうですが、ビートルズ以前はこんな録音を数多く残しています。おっと、ビートルズが出てきてからも、ピーター・セラーズにビートルズをカバーさせてます(達郎さんが好きな)。こんなのを好き好んでやっていたのか?職人なのか、ガチでへんなのか?よくわからなくなりますこの紳士は。ちなみに、ジョージ・マーティンとビートルズの Parlophone レーベルはいまやクイーンまで擁する超名門レーベルですが、当時はこんな冗談音楽と当たり障りのない軽音楽だけでした。


今日の1曲「タグ・オブ・ウォー」は、私が一番好きなジョージ・マーティン制作曲。ポール・マッカートニーの1982年の大ヒットアルバムのリーダー曲で、ポール40歳、ジョージ56歳時の仕事。ジョンが亡くなって悲しんでいたポールとビートルズファンを、ジョージ・マーティンが助けてくれました。


ジョージ・マーティンさん、ビートルズを見いだしてくれてありがとう。そして先立つ50年代に、くだらない音楽の実験をたくさんやってくれていてありがとう。やすらかにお眠りください。


Ringo's Theme / George Martin Orchestra

(たかはしかつみ)




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