2015.05.06
おもちゃのチャチャチャ おもちゃのチャチャチャ
矢野顕子

オーエスオーエス (1984)

朝起きると娘がピアノで「おもちゃのチャチャチャ」を練習している。今週はこれを子どもたちに歌わせるらしい。重たい瞼でトーストを食べながらピアノを聴いているうちにこれはもう書かなければいけないと思った。越部信義さんのことである。2014年11月21日に逝去されてから小欄で早く取り上げなくてはと思いつつ、ずるずると時間ばかりが経ってしまっていた。これも何かのきっかけかもしれない。無論娘は越部さんのことは知らない。

越部信義さんは1933年東京生まれ。東京藝大でアカデミックな音楽教育を受けた後、大阪朝日放送の作曲コンクールで三木鶏郎さんの目に留まり「冗談工房」に参加する。1965年のことである。この頃三木さんもまだCMソングの制作を行っていたが、越部さんも多くのCMソングを手掛けることになる。「光る東芝」、丸善石油の「オー・モーレツ」、「シウマイの崎陽軒」・・・、枚挙にいとまがない。本格的なテレビの時代を迎えていたこと、高度成長期の真っただ中にあったこともあって、サウンドロゴとしてのCMソングが数多く作られることになった。越部さんの作る曲は明るくて元気に溢れている。颯爽と前に進んでいく感じが時代の空気にとてもよく合っていたのではないか。

越部さんの活躍の場はCMソングに留まらず、NHKの「おかあさんといっしょ」をはじめ学校の校内放送向けの楽曲など、子ども向けの作品を数多く世に送り出すなど多岐に渡っている。
さらに越部さんはアニメの主題歌も数多く手がけ「鉄人28号」や「パーマン」をはじめ「マッハGoGoGo」「みなしごハッチ」など一連のタツノコプロ作品や「サザエさん」の挿入歌なども手がけている。およそ越部さんが作った曲を一度も聴いたことのない日本人はいないのではないかと思う。

「おもちゃのチャチャチャ」。童謡としては知らない人がいないほど有名な曲だ(作詞は野坂昭如さんで補作詞は吉岡治さん)。越部さんのキャリアを代表するこの曲を1984年に矢野顕子さんが取り上げた。アルバム『オーエスオーエス』の何と1曲目にこの曲を持ってきている。「好きな曲とか、素敵な曲だと自分で歌いたくなってしまう」という彼女らしい選曲だけどほかの様々なカヴァーと同様に、これまた完膚なきまでに原型をとどめず、完膚なきまでに自分のものにしている。
しかしながらおもちゃがチャチャチャで跳ねているという、ウキウキしているその雰囲気を、アッコちゃんのカヴァーはしっかりと受け継いでいる。

CMソングや童謡やアニメの主題歌など多くの人にお馴染みの数多くの曲を送り出しながら、どこか“読み人知らず”の感がある越部さんの音楽。多くの人が知らず知らずのうちに耳にしていたり口ずさんでいたりするというのは、作曲家として偉大な功績だと思うのだ。


(Kazumasa Wakimoto)




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