2015.03.01 - Jimmy Webb Special
Adios Adios
Linda Ronstadt

Cry Like a Rainstorm, Howl Like the Wind (1989)

「Adios」は かざらない2節の歌詞からなる味わい深い小品です。17歳で駆け落ちした彼との想い出を1番の歌詞で、別れを2番の歌詞で歌います。この歌詞には Jimmy Webb の作詞家としての技法が存分に盛り込まれています。

Jim はソングライティングについての著書『Tunesmith』(1999) の中で次のように書いています。

曲のタイトルやフックを決めるときは、韻をできるだけたくさん踏める可能性のある単語を入れるようにする。

辞書もガリガリひくそうで、「Adios」には《morose》《close》《grandiose》という3つの単語が、サビの《adios》が歌われるたびに韻を踏んで置かれています。曲のテーマは別れなのですが、韻の工夫をすることで《good-bye》ではなく《adios》が選ばれ、さらにふわっとした雰囲気の形容詞を並べることで、優しい別れの曲に仕上がっているのではないでしょうか。

「Adios」は1989年の Linda Ronstadt のアルバム『Cry Like a Rainstorm, Howl Like the Wind』に収録されています。作詞作曲とオーケストラのアレンジを Jim が担当、コーラスを多重録音で Brian Wilson が担当、そして あの Linda Ronstadt の声。Jim と Linda と Brian のコラボの曲です。リンダは「Adios」録音時の想い出を振り返っています。
スタジオではブライアンの考えで3声のコーラスを5回重ね録り(都合15トラック)しました。ブライアンは個々の録音の音程が多少外れても気にすることなく仕事を進めて、ハーモニーをミックスしていきました。その結果クリーミーなビーチボーイズとしかいいようがないハーモニーができたのです。

Linda Ronstadt『Simple Dreams(本)』(2013)

リンダとブライアンは以前に付き合いがあったそうです。付き合いといってもブライアンなのでロマンチックなものではなかったそうですが。ブライアンがだめな時期に、一緒にコインランドリーに行ってあげたり、一緒に《ブライアンが大好きな》Phil Spector のレコードを聴いてあげたりする近所付き合いだったとのこと。

ブライアンがリンダの録音を手伝った1989年は、彼が『Brian Wilson』(1988)で大復活した直後で、その余勢をかっての録音だったのでしょうか。一方、このころのリンダですが来日していますね。John Lennon の生きてたら50歳の誕生日とかのイベント(1990)で、東京ドームで Peter Asher とデュオで「All I've Got to Do」を歌ったのにはとてもびっくりしました。

そしてその10年後の2010年、ぼくはジムの東京のステージのアンコールで「Adios」を聴くことになります。


さいごにジムからリンダへすてきなメッセージがあるので紹介します。
リンダと私は長い旅をしてきたが、これは彼女が知らない話しだ。30年ほどまえ私は砂漠で迷う夢を見た。冷たい砂塵をこらえていると、遠くからトラックがやってきた。メキシコ人の男女が数人乗っていて、リンダも乗っていた。リンダは手を差し伸べ、私を乗せてくれた。私たちはしばらく無言でドライブを続けたが、やがて彼女が私の肩にもたれかかってきた。全員がひどく汚れ疲れきっていた。村に着くとリンダがつぶやいた「あの教会に泉があるわ」。私は彼女と教会に行き、水を飲んだ。全員が元気を取り戻すことが出来た。

Jimmy Webb 『Just Across The River』(2010)

リンダはジムの守護天使ですね。

今日の1曲

(たかはしかつみ)




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