2015.01.25
On The Sunny Side Of The Street On The Sunny Side Of The Street
Steve Tyrell

A New Standard (1999)

Steve Tyrellのスタンダード歌集『A New Standard』は、自分にとって「冬に聴きたくなる心暖まるアルバム」の筆頭です。1999年リリースですから、もう15年も聴き続けているんですね。

Steve Tyrellと聞いて、「はいはい」と納得する人はよほどの音楽マニアではないでしょうか。本サイトではB.J. ThomasやBarry MannやMark Jamesのレヴューにその名が何回も出てきますが、基本は裏方だった人。10代の頃から地元ヒューストンやニューオリンズでレコードを作り始め、19歳でNYに行きセプター・レコードでA&Rとして働き始めます。20代前半でBurt BacharachやHal Davidに「こういう曲を書いてくれ」と指示を出していたというから、スペクターもびっくりの若き業界のやり手だったはずです。その後もセプターでB.J. Thomasの『Billy Joe Thomas』や、自身のレーベル、New Designを立ち上げてBarry Mannの『Lay It All Out』などの名作を次々と世に送り出しています。

転機となったのは、映画『花嫁のパパ』のサウンドトラックをプロデュースすることになった1991年。自身で歌ったスタンダード・ナンバー「The Way You Look Tonight」のデモをチャールズ・シャイアー監督が偶然聴いて気に入り、デモがそのまま劇中で使われることになりました。それが大きな話題となり、アトランティックやコロンビア、ディズニーといったメジャー・レーベルから、アーティストとしての契約オファーが殺到したというから驚きです。そして制作されたのが、このデビュー・アルバム『A New Standard』でした。

1曲目の「Give Me The Simple Life」からストリングスの優しい響きに、お世辞にも美声とは言えないダミ声が絡みます。そのヴァースを聴いた瞬間にこの音楽の虜になっていました。古き良きアメリカのポピュラー・ミュージックの王道とも言える甘いアレンジと、イタリアの血を引く人懐っこい陽気なヴォーカルが、心をほんわかと暖めてくれます。

1曲を選ぶなら「On The Sunny Side Of The Street」でしょうか。作詞Dorothy Fields、作曲Jimmy McHughで、1930年に「International Revue」というレビューのために書かれました。

I used to walk in the shade with those blues on parade
But I'm not afraid this rover crossed over
(僕は憂鬱を抱えてずっと日陰を歩いてきたけど
でももう何も怖くはないよ
だって通りの向こう側に渡ったんだからね)

この歌詞の部分が特に好きです。暖かくなると同時に、元気も貰えます。

ちなみに、このデビュー・アルバムをリリースした時、Steve Tyrellはすでに55歳。アーティストとしての遅咲きにもほどがありますが、そんな逸話にも勇気を貰えますよね。


今日の1曲

(高瀬康一)




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