2014.08.30 - 追悼大瀧詠一
Dr. Kaplan's Office Dr. Kaplan's Office
Bob. B. Soxx And The Blue Jeans

Single (1963)

“Hay! Girls and boys, Ladies and gentlemen, Okkasan, Ototsuan.
This is Each-Ohtaki's GO! GO! NIAGARA from 45 Studio at Fussa, 60 minutes on Tuesday Midnight.
日本一の風邪引き男、大瀧詠一の趣味の音楽だけをかけまくる60分の時間のタイムがやってきました!”

トニー谷もビックリのスピーディーなオープニングの口上が「Go! Go! Niagaraのテーマ」に乗って流れてくる。Bob.B.Soxx and the Blue Jeanesの軽快だけれどもちょっとストレンジな「Dr.Kaplan's Office」をカヴァーしたテーマ曲。これから始まる時間へのワクワク感を掻き立てられるオープニング。"Go! Go! Niagara"の始まりだ。

このテーマ曲を最初僕は大瀧さんのオリジナルだと思っていた。初めてこの曲を聴いたのがラジオ番組ではなくて、この番組の雰囲気をそのままレコードにしたアルバム『Go! Go! Niagara』だったからであり、当時はPhil Spectorがプロデュースした曲の数々はほとんど聴くことができなかったからである。というかこの当時の僕は今から思うとPhil Spectorという人についてほとんど何も知らなかったのだ。

CD時代も末期に近づいており、今はフィレスの音源の数々も驚くような価格で、しかも高音質で楽しめるようになった。この「Dr.Kaplan's Office」も勿論フィレスのアルバム・コレクションに収められている。
しかしなんだってシングルのB面で、1曲だけのインスト曲としてアルバムの最後に収められているこの曲を選んだのか。当時日本では『レア・マスターズ』くらいしか世の中に出回っていなかったような時代。大瀧さんのコレクターとしての慧眼と選曲の妙に感服。古い記事の写真を見ると大瀧さんはこのテーマ曲をシングル盤からかけている。この頃フィレスのオリジナル・シングルはどうやったら手に入ったのだろうか。

ともかく僕は後年、初めて番組をエアチェックしたテープを聴くまでこのアルバムから番組の雰囲気を感じ取るしかなかったのだけど、それでもDJスタイルの音楽番組をそのままレコードにしてしまうというのは、なんとも素晴らしいアイデアだと思ったものだ。何より雰囲気が楽しそうで、テンポがあってノベルティ満載なナイアガラ前期のアルバムの中でもとりわけ好きなアルバムだった。このポップなアルバムの感じが福生45スタジオで制作された番組の雰囲気なんだろうな、と漠然と想像したりしていた。

しかし、大瀧さんのインタビューを読むと実際は結構なドタバタもあったようだ。「ナイアガラ音頭」が予想に反して売れてしまったため、スケジュールが押して、レコーディングの時間が取れなくなってしまった。アルバム制作発表の段になっても何もできていなかったので、窮余の策として自分のラジオ番組をアルバム化するというアイデアを出すしかなかったのだと。

本来は自分のレコードとラジオ番組を一緒にするということはしたくなかったのだそうだ。ミュージシャンとしての活動とDJとしてのそれを明確に区別したいという創作者としてのアイデンティティがあったのだろうと思うのだが、結果としてはロックンロールやオールディーズ・ポップス、メロディタイプのバラードなどの合間にラジオ番組らしくジングルまでも挿入されている、ヴァラエティに富んだテンポの良いアルバムが出来上がった。そう、この小気味良さが僕は好きなのだ。



大瀧さんの、いやEach OhtakiのDJスタイルは本格的なアメリカンタイプ。古くはAlan FreedやWolfman Jack、Jim Pewterのようにシンプルに曲を紹介していく王道のスタイルを踏襲している。そこに日本の糸居五郎や亀淵昭信などのように自分で選曲した曲をターンテーブルに乗せるスタイルを取り入れ、その二つの特徴をうまく組み合わせた独自のスタイルを切り拓いた。

当時大瀧さんは“DJの条件”を「音楽をよく知っていること」、「第三者的な批評眼を持っていること」、「雑学の大家であること」、そして「旺盛なヤジウマ精神を持ち合わせていること」と語っている。ミュージシャンという立場ではなくて純粋にDJとして成立しうる番組を目指していた。どうもこの番組あたりがベースになって学究肌な大瀧さんの、勉強家としての探求の旅が始まったのではないかと思う。

レコードを漫然と聞いているだけではなかなかつかめなかった部分を、大瀧さんは番組で立体的なカタチにしてくれたと思う。なるほどこの曲にはこういう意図があったのかとか、この人とこの人とはそういう関係があったのかというような、多くの気付きを与えてくれた。この番組に薫陶を受けた人たちが業界の内外を含めてたくさんいることからも分かるように、趣味趣味音楽を共有する喜びが多分に伝わってくる番組であった。

時折横田基地を離発着する飛行機の音が後ろに聞こえる雰囲気満点のなか、好事家たちが楽しい夜更かしをしたはるかな時代。こんな楽しい音楽番組はもう出てこないのかもしれない。


今日の1曲




(Kazumasa Wakimoto)




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