2014.07.21
Darlin' Darlin'
山下達郎

c/w 高気圧ガール (1983)

冷房の効いたドーナツ屋で遅い昼食をとっていた梅雨明け間近の午後。iPhoneのアプリをラジオに合わせるとヘッドフォンから山下達郎が『Big Wave』のアルバムを紹介しているのが流れてくる。ドーナツ屋の窓を通して見える空は低い雲が次々と流れて光の具合が刻々と変化していく。それにしてもこんな夏の午後の昼下がりに聴く達郎のビーチ・ボーイズは最高じゃないか。Wouldn't It Be Nice !。

アルバムは30周年を機にリマスターされるのだそうだ。もう30年も経ったのか。30年前にこのiPhoneよりも二回りも三回りも大きなWalkmanを持ってこうして今と同じように達郎の歌うビーチ・ボーイズを外に持ち出して聴いていた。音はカセットのあの頃よりも格段に良くなって機器はコンパクトになって、そして僕の頭にはあの頃にはなかった白髪が混じっているけれども、でもこんな夏の昼下がりに聴くときの震えるような感動はきっと変わらない。そして冷房の効いた店内ではむしろホット・コーヒーのほうがしっくりくるのだ。

あの頃60年代は遠くなっていて、モノラルで録音されていたビーチ・ボーイズのオリジナルよりもステレオの奥行きを感じられる達郎のカヴァーのほうが時代の空気にしっくりと合っていた。ドラムとベースとコーラスの絶妙な位相とエコー。アナログ・レコーディングの持つ音の深みとふくよかさがまるでシャワーのように気持ちがいい。今ならその良さがあの頃よりももっとよく、解る。

ビーチ・ボーイズを一人で演奏するというスタイルも最高にいかしていたのだ。何度も何度も繰り返し浸ってそらで口ずさんでいた30年前。
ドーナツ屋の店内で聞こえないように小さく口を動かしてみたらまだ憶えていた。三つ子の魂百まで(笑)。

「Darlin’」はブライアンがSharon Marieに書き下ろした「Think About You Baby」がそのオリジナルだけれども、達郎はこの一節をしっかりと歌っている。そういう知る人ぞ知るネタを忍ばせるようなオタクなところも実際カッコよかったのだ。

帰ってきて久しぶりにシングル盤に針を落としてみる。そしてちょっと大きな声で口ずさんでみる。”シンカバウチャア ベイビ〜 オ〜ダーリーン♪”


(Kazumasa Wakimoto)




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