2014.03.30 - 追悼大瀧詠一
君は天然色(前編) 君は天然色(前編)
大滝詠一

A Long Vacation (1981)

奇跡のサウンド「君は天然色」。この曲がどうやって《録音された》のか。それは永遠の謎になってしまったのですが、でもわかりたい。残された大滝さんのインタビューとこの2月3月の出版雑誌に掲載されたエンジニアの吉田保氏らの発言から、想像力をたくましくして迫ってみる。



「天然色」は20名のミュージシャンによってベーシックトラックの録音がされていた。「大滝オーケストラ」と呼ばれるこの編成は、ドラム、ベース、エレキギター3本、アコースティックピアノ4台、エレピ1台、パーカッションが5人、アコースティックギターが5人(吉田保・サウンドデザイナー2014年3月号)。なぜ20名なのかが大事なポイントなのだがここでは考察は我慢する。

ロンバケ30周年時にサンレコ誌に掲載された大滝さんのインタビュー記事(サウンド&レコーディングマガジン 2011年4-6月号)の図なども参考にするとスタジオは図の様になっていたと思われる。


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| |
| A.G A.G A.G A.G A.G |
| Per Per Per Per Per |
| |
| Pf Pf |
| Pf |
| Pf |
| E.Piano |
| E.Gtr |
| E.Gtr |
| E.Gtr OHTAKI |
| E.Bass |
| ------- |
----------------| Drums |-----


興味深いのはアコギとパーカスが2列横隊でずらっと並ぶこと。(私が観た西武球場のライブもそんな感じだったと思うのですが写真、どこかにないですかね。)この編成で全員一斉に演奏を行うのです。それだけでも驚きなのに、それどころかこの「大滝オーケストラ」を一気に2トラックにまとめて録音してしまう。


実はブースにいるミュージシャンの演奏をステレオ・トラックにまとめてライブ録音しているのです。ただ当然のことながら、この方式だと後でバランスを変更することができません。なので一応保険をかけた方が良かろうということで一部のパートは別トラックにも録音してますけどね。それでも吉田さん、ミュージシャン、僕も含めて、現場はものすごい緊張感でしたね。(大滝詠一・サンレコ 2011年5月号)


天然色に関しては、昔ながらのレコーディング方法を採用しましたまずはマルチマイクを立ててリズム録りを行い、それを(録りの段階で)2トラックにまとめるのです。EQとかコンプとかで音決めをして、定位も決めて同時録音しました。(吉田保・サウンドデザイナー 2014年3月号)


一斉にスタジオで演奏することにより、演奏に緊張感が生まれ、さらに音が分厚くなる効果があったようだ。


(楽器間の)音のカブリを利用して音圧を稼ぐというのがかつて1960年代にフィル・スペクターがやっていたことであり、それこそ大滝さんの狙いなのだろうから。(吉田保・サンレコ 2014年4月号)


大人数の「オーケストラ」で演奏することで、あの音が出ることの確証が大滝詠一にあったのだろうが、2トラックにまとめて録ることや、そのための技術的な各種の設定は、吉田保が大滝詠一と相談しながら、スタジオですごい勢いで決めて行ったそうである。それを実現するために、どれだけの大変な準備があったかというと、実はその場で解決していったそう。


(ロンバケの録音開始の1980年4月18日)いつものようにCBSソニー六本木スタジオに到着したわけだけど、どうも騒がしいなと。やけに楽器が多いし、バタバタとした雰囲気がする。それでアシスタントに聞いて、大滝さんが大人数のミュージシャン編成でレコーディングをするという話をようやく知るわけ。「えー?ほんとに?」とは思ったのだけど。(吉田保・サンレコ 2014年4月号)


短時間で完璧なセッティングをして行くこと自体奇跡に思えるが、吉田保には経験と技術があった。ただしそれをぶっつけでさせる大滝詠一である。これが吉田らスタッフを信じ読み切っていたからなのか、あるいは場当たりを好んでのことなのか、大滝詠一なのでわからない。前もって相談していたら(吉田氏はともかく、どこからか)こんな仕事は危ないだの何だのという親切心という名のじゃまが入るとかいう読みがあったのかもしれない。



これで録音された音が、ロンバケ30周年のボーナスディスクの最後に収録されている。「君は天然色(Original Basic Track)」である。奇跡のサウンドである。


(続く)後編


(たかはしかつみ)

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