2012.09.19
Million Dollar Quartet Million Dollar Quartet
Original Broadway Cast

Theater Orb (2012)

ブロードウェイの引越しミュージカル、ミリオンダラー・カルテットを観てきました(2012.9.17 シアターオーブ、千秋楽)。

Elvis Presley、Johnny Cash、Jerry Lee Lewis、Carl Perkins。SUNレコードに所属したロックンロール創世記のスター4人による1956年12月4日一夜のスタジオセッション。この一幕一場の芝居は、SUNレコードで起きていたことを、前後1年程度のできごとを巧みにアレンジしながら、SUNスタジオの中で110分の間に起きたこととして演じています。

まずはミュージカルからちょっと離れまして、周辺の史実をつまんでみたいと思います。Million Dollar Quartet のセッションはこっち、それを生んだ Sun RecordsとSam Phillips についてはこっちをご覧ください。


エルビスはミリオンダラーセッションの1年前の'55年11月にSUNレコードからRCAに《35,000ドル》で引き抜かれています。このせいで、エルビスはSUNがあるメンフィスから離れ、RCA のあるナッシュビルに移っています。移籍最初のシングル "Heart Break Hotel" が翌'56年1月にリリース。これが有名なテレビパフォーマンスが卑猥だとかいう騒ぎも経て、4月にチャート1位に。

一方、SUNではついにCarl Perkins がブレイク。"Blue Suede Shoes" を4月にヒットさせ、しかもポップ/R&B/カントリー3部門でトップ3入りという偉業を成し遂げます。Sam Phillips の喜びは如何ばかりであったのでしょうか。しかしこの曲のポップチャート1位をさえぎったのがエルビスの "Heart Break Hotel" でありました。さらにエルビスの飛ぶ鳥を落とすとはこのことで、7月には "I Want You, I Need You, I Love You" を1位に。8月には "Hound Dog/Don't Be Cruel" を1位にします。

しかしSUNも黙ってはいません。今度はJohnny Cash が7月に "I Walk the Line" でカントリーチャートの1位を獲得します。さらに11月には Jerry Lee Lewis がオーディションを受けに Sun Records に現れる。ミリオンダラーカルテットの最後の奇才は土壇場で登場するのですね。一方同じ11月にはエルビスの初主演映画の "Love Me Tender" が封切られます。そして12月、怒涛の1956年を過ごしたエルビスは、休暇をもらってホームであるメンフィスに戻ります。ミリオンダラー・カルテットの一夜へ。

明けて'57年もエルビスは快調で、実に1年の合計半年分くらいはチャート1位を獲得してます。そして、Jerry Lee Lewis は11月に見事 "Great Balls of Fire" を大ヒットさせます。

ロックンロールの年となった1956年、1957年。今の耳で聴くと、"Heart Break Hotel" は、さほど激しくないかもしれません。むしろ Carl Perkins の "Blue Suede Shoes" が当時の耳を「刺激」したのではないかとも思えます。そしてその刺激をアッサリと過去のものにしてしまったのかもしれないのが直後のエルビスのカバー "Blue Suede Shoes"。さらに続けざまにもっと激しいJerry Lee Lewis の "Great Balls of Fire"。大瀧詠一をして「1秒として無駄のない完成品」(アメリカンポップス伝PT2 第2夜)と語らしめたこの曲までつながって、当時の人はロックンロールへの刺激耐性が、2倍、4倍、8倍と急激に上がって行ったのではないでしょうか。


シアターオーブは、渋谷の東急文化会館を立て替えた大きなビルの上層に(五島プラネタリウムよろしく)乗っかった新劇場。2000名弱を収容するミュージカル専用劇場は、とても見やすく、しかもロビーは外壁がガラス張りで渋谷新宿一帯が見下ろせる、大変気持ちのよい空間でした。ミリオンダラーの客層は、私より一回り以上上の「エルビス現役世代」が目立ち、それ以外は若い人から中堅までバランスよく色々な世代から支持を受けているようでした。
役者もよく、ほろりとさせるラストシーンを含め、非常によくできたミュージカルでありました。

Johnny Cash は'58年に Columbia Records に移籍し、その後もカントリーの巨人としてヒットを積み上げます。Carl Perkins も'58年に Columbia に移籍。必ずしもビッグヒットに恵まれませんでしたが、60年代以降は Beatles の4人全員から厚くリスペクトされる存在となります。Jerry Lee Lewis は永くSUNと運命を共にし、現在も現役です。




今日の舞台


(たかはしかつみ)




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