第回 : 森 勉さん



『アイドルを探せ』〜『グローイング・アップ』
レコード屋さん
−キンキキッズは大チャンス−

-今はお客さんの構成というのはどうですか?
 アイドル全盛の時は小学生とか中高生のお客さんが多かったんですけど、最近はその年代の人たちが携帯電話にお金を使っちゃって、お小遣いがないんですよね。だからそれが業界全体へも響いているっているのがありますね。うちの客層は普通のお店より少し高いんじゃないかなっていう風に思いますね。ただしキンキキッズのファンの人たちにもきちんと対応しなくては、というのがありますから。達郎さんがキンキキッズに曲を提供するというのは、僕たちにとってチャンスというか、「この曲を作った山下達郎という人はこういうCDも出してるんだよ」って提示できる瞬間でもあるわけですよ。実際に松田聖子の「風立ちぬ」が出た時に、中学生くらいのファンの方がうちのお店の影響で大滝詠一のファンになったっていうこともありますしね。「これを作ったのは」とかね、一言、うるさいかなって思われるかもしれないけれど、添えることが大切なことでね。シャネルズが出てきた時も「これの元はドゥーワップっていうのがあって」っていうことを説明できるアーティストがいると嬉しいですよね。接点がね、はじめからドゥーワップ聞けって言うのも難しいですから。

-10年後ポップス・フリークになっていたなんていうこともあったりして(笑)。
 現実にありますよね。それは非常に嬉しい瞬間ですよね。今の時代ってはじめからこれを聴いてなっきゃいけないっていう人もいるんですけど、年齢によって聴くものって変わってくると思うんですよね。はじめは童謡聴いて、アイドル聴いて、ロックっぽいもの聴いてって段階があると思うんですけど、最初っからアイドル聴いてちゃだめだよっていうのでもないと思うんですよね。

-お店の商品構成で結構健全な聴き方を推奨しているって感じがします。
 僕なりにこういうものを聴いてもらいたいっていうものを置いておきたいというのは、強くありますよね。自分が薦めたい時にその商品がないっていうのはくやしいですしね。

-PET SOUNDSの名前はいつ使おうと決めたんですか?
 自分で店をやろうと思った時には、もうありましたね。ただ始めた頃はほとんど誰も知らなかったですよ。今洋楽聴いている人は、ほとんど Beach Boys の名前は知っていて、『Pet Sounds』って一番有名なアルバムになっちゃいましたよね。でも当時は Beach Boys を知ってるっていう人がそんなにいませんでしたし、『Pet Sounds』のアルバムを知っている方でも、どうして PET SOUNDS なのっていう感じでした。

-『Pet Sounds』はPET SOUNDSで買わなきゃって思っていました。
 「このアルバムはここで買わなきゃ」って言っていただくのが本当にありがたくって。これはお店の初代のスタンプカードなんですけど、こんなことやってたんですよ(註、『Smile』のジャケットのパロディーになっている。)でも、これは『Smile』のジャケットじゃないかって
言う人はほんとにわずかでした。デザイン的に店構えの様子が気に入ったんでパロディーとして使ってみたのです。
-以前アナログ盤が2Fにありましたよね。
 だんだんワンフロアじゃ手狭になってきたというのがあったんですが、ちょうどレコードからCDに移行する時期で、アナログを全部切っちゃうっていうのが忍びなくて、1階はCD、2階はアナログでやったんですけどね、商売としては甘くなくて長くは続かなかったんですけど、今でもわずかでもアナログは置くようにしています。

-中古盤店でなく、新譜を扱うお店にした理由は?
 その時代、その時代の音楽も聴いていたい、っていうのが一番ですね。『ロングバケーション』の20周年記念盤や達郎さんの新曲を売れるわけですから、ずっとそうしていきたいですね。新しいもので面白いものもいっぱいあるんですよね。でもそういうのに出会うのが難しい時代になってきちゃっているんですよ。オールディーズとともに、そんなものもPET SOUNDS流に紹介できればと思ってます。

 あちこちで、PET SOUNDS のことを話題にして下さる方もいたり、遠くからも来て下さるお客様もいらっしゃって、ありがたいことで・・・。気を引き締めないといけないなと感じる所ですね。

 自分ではやっていないですけれど、インターネットの時代ってすごいですよね。最近はインターネットでPET SOUNDSの名前を見掛けたんで来てみましたっていう方も多いんで、そういう方に応えられる品揃えになっているかどうか、疑問なところもあるんですけれども。うちの店は新譜を売りながらやってきたんで、それだからこそ20年間できたんじゃないかっていうのがありますよね。なかなか厳しい時代にはなってきていますが。

-POSの荒波に続いて、MP3とかインターネットは荒波ですね。
 音楽を真剣に聴いていらっしゃるお客様はいいんですけれど、もうパッケージはなくていいと、早く聴ければいい、という人たちもいっぱいいるわけで、そういう人たちにも対応していかなくてはいけないですからね。でもパッケージが欲しいという人もいなくならないと思うんですよ。どこどこのお店で見つけて、思い出に残るわけじゃないですか。あの時誰それと一緒に買ったんだよな、とか、帰りに喫茶店で封開けて裏表ひっくり返して中見てっていうね、そういう楽しさを知ってらっしゃる方がいる限り大丈夫だと思うんですよね。

 お店って不思議なもので、お客さんから教えられるって事もすごく多くて。最近は発売される数も多いので、初めて聞く名前も多いし、ジャンルも複雑化してきているし、CDだけでなくDVDなどの映像関連、あるいはレコード針などの多種多様なものがありますから、本当に日々勉強です。



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